「よお!」
「あ、丸井…先輩」
「…前みたいに、ブン太って呼べよなー…」
「………ブン太、先輩」
「ん!上出来だぜぃっ」


そう言ってにかっと微笑む、眩しいくらいの笑顔が大好きだった
テニスをしている姿も、偶然見かけた、私服姿のプライベートのあなたも。
全部ぜんぶ、大好きだった。

…違う、大好き。

過去なんかじゃない、この感情は。
私の体中が、あなたを好きだと叫ぶ。

でも、過去にしなきゃいけないんだ。否、いけなかった。
なぜなら私は赤也の彼女になったから。

――― でも、それもできなかった。
ごめんね、赤也。あなたはとても優しかったし、私を愛してくれたのに。
私は…その気持ちに、何も返すことは出来なかった。
いつかできると思ってた。いつか、好きって気持ちを 赤也にも返すことができると思っていたのに。

私の瞳に映るのは、いつだって ブン太先輩、あなたでした。










甘いケシの実を食べたのは誰?


- 後編 -











あれから―――ブン太先輩が、赤也に宣戦布告?をして以来、先輩は毎日、私の教室にやってきた

そう、私とブン太先輩が、図書室で知り合い、そしてブン太先輩が図書委員じゃなくなってから、
私に会いに教室に来てくれたり、お昼ご飯を一緒に食べていた頃のように。

お昼休み、例の如くブン太先輩は私の元へ来た。でも、その時既に、私のところには赤也がいた。


、行こうぜ 昼飯」
「あ、かや…。うん」

赤也の彼女。
名実ともにその位置にいる私が、断れるはずも無く。よもや、クラスメイトの前で。

「おい、赤也っ」
「…何スか?ブン太先輩。」

挑発するように、赤也はブン太先輩を横目で見た。と同時に、私の手を握り。

「…っ」
は、俺の彼女っスよ」
「…赤也」
「なに?
「……な、んでも ない」

その言葉に赤也は頷くようにすると、もう一度ブン太先輩を一瞥してから歩き出した


この間も言われた通り
私が赤也の彼女だと、私の彼氏が赤也だと認めたのは私。
だから…これでいいの。これがいちばん、正しいの――――


、お前さ、まだブン太先輩が好きなワケ?」

中庭のベンチで昼食を食べていると、不意に赤也が口を開いた。
いきなりの核心をついたような質問で、少しむせてしまう

「っ赤也、わたしは」
「言い訳しようったって無駄。見てて分かるんだよ、お前 嘘とか下手だし」
「…」
「…ま、ブン太先輩はあの時のお前の嘘、見抜けなかったみてーだけど?」
「!」


蘇るのはあの日の記憶。

私が初めて あの人に嘘をついた日の。





その日も、休み時間に来てくれたブン太先輩に少し素っ気無い態度をとった。
…これは、一ヶ月前くらいからずっとやっていることだ。
こんなに長く続けるつもりは無かったけれど、全然ブン太先輩が反応を示してくれなかったから。
押して駄目なら引いてみろ。押した覚えはないけど、まさにそれを実行していたのだ。友達の助言により。

けれどその日は違った。
ブン太先輩は私の態度を見ると、少しイラついたように私の腕を掴み(でもその手は優しくて)、
教室を出て、誰も使っていない教室に押し込んだ

「…ブン太、先輩?どうし」
「なんなんだよっ…なんで、そんな冷たいわけ?俺、なんかした?何かしたなら、教えてくれぃっ…」

その辛そうな表情に、私の中での疑問が正解となり、ただでさえ自惚れていたのに、
…友人から提案された、絶対にしてはいけなかったことをしてしまった。すべては、自惚れのせいで。

「違います。ブン太先輩は何もしてないですよ」
「…じゃあ、なんで」
「…赤也と、付き合い始めたんです」
「!!」

試したんだ。彼を。
ブン太先輩は、私のことが好き。それを確信したから。
赤也は、以前私に告白してくれた。でも、断った。ブン太先輩が好きだからと。
だから、彼を使って、しかもこんな嘘、最低だと分かってた。やっちゃいけないと。
でも、大丈夫だと思ったんだ。なぜなら、

私はてっきり、「赤也なんかやめて俺にしろぃ」とか言ってくれるんだと思ってたから。
そしたら、「嘘です、私が好きなのはブン太先輩」ですって、言えたのに。

返ってきた言葉は、予想外のもので。


「…そ、か。赤也と、仲良くな。ずっとお前んとこ行っててすまねえ。もう行かねえから」
「え?」
「じゃあな」
「っブン太せんぱ」
「名前なんかで呼ぶんじゃねえよ!!」
「ッ!!」
「…もう二度とお前とは関わらねえ。だからお前も……俺に一切関わるな。……赤也の彼女さん」

そう吐き捨てるように言うと、彼は教室から出て行った。

「…!ブン太、先輩…」


教室に残されたのは、私と、そして言い知れない罪悪感と後悔のみだった。


私がついた最低な嘘は、ブン太先輩を通じて赤也にも伝わり。
既に傷付き、沈んでいた私に怒った。もちろん、怒るだろう、そんな風に利用されたら。
でもそれ以上の痛みを持っていた私にとって、それはあまり威力あるものではなく。

そんな様子を見た赤也は、怒ることをやめ、逆に私を優しく抱き締めた

「そんな傷付いて、後悔してんなら…先輩のことは諦めろよ」
「…!」
「先輩についた嘘、貫き通せよ」
「っ赤也?」
「俺の、彼女になれ。…いや、お前は、俺の彼女なんだろ?」

体を離され、まっすぐ見つめられた彼の瞳は、今にも泣き出しそうな辛い目をしていて。
ああ、私は赤也のことも、こんなに傷つけてしまったんだと、実感して。

「…うん」

そう、それは罪悪感と同情だった。
でもいつか、赤也なら本当に好きになれると、思ったんだ―――






「ごめん、ね…赤也…」
「!…、まさか」
「私、赤也のこと好きになれると思ってた。でも、無理だったみたい」
「…嫌、だ  やだぜ、俺はっ」
「バイバイ」
「っ!!」


手を伸ばす赤也の手を振り切るように、私は走り出した。
会いたい会いたい会いたい。

どこへ向かうかなんて、正直分からなかった。
ただ、ブン太先輩に会えそうな気がして、走り続けていた。


ドンッ

「っわり」
「ごめんなさ―――…あ、」
「…
「ブン太先輩…」


曲がり角でおもいっきりぶつかった相手はブン太先輩だった。私が丁度、会いたいと思っていた彼だったのだ
これは神様が私にかけた情け?なんでもいい、会えて よかった。

ブン太先輩も走っていたようで、肩で息をしている。
王者立海のレギュラーであるブン太先輩が肩で息してるってことは、相当走っていたってことだろう
急いでるんだろうか。ならすごく申し訳ないけど、このまま行かせたくない…


「あの、ブン太先輩、わた」

「え、は、はい」
「…俺、お前が好きだ」
「! ぁ、…」
「お前が赤也のこと好きでも。赤也の彼女だとしても。俺は…お前が好きだ。
 彼女を泣かせるようなアイツに、は任せられねえ。後輩なんて関係ない。は、俺が 奪う」
「っ!!」


なんで、なんで。この人は私のことをこんなに想ってくれるの?
ひどいことをした、醜い女なのに。
私も私だ。やっぱり私、最低かもしれない。
そんなことを想いつつも、

すごく、嬉しい。


「っごめんなさい!!」
「!…赤也が、好きってか?」
「あ、違っそのごめんなさいじゃなくて…」
「…じゃあ、何だって言うんだよ?」
「…私、嘘吐いてたんです。最低な…嘘を…」


そして、ブン太先輩にすべて話した。
はじめは、赤也と付き合ってたってことなんて、嘘だったって。
私が、うぬぼれてたってことも。

もしかしたら幻滅されるかもしれない。ううん、されると思う。
でも、もう嘘はつきたくなかった。言いたかったんだ、本当の気持ちを。


「最低なことをしたっていうのは、分かってます。でも…
 私はずっと、ブン太先輩が好きでした。…幻滅、したかもしれないですけど…」


そう言えば、先輩はもともと少し大きめの目をもっと大きく見開いて。
少し視線を彷徨わせてから、決心したように私をぎゅっと抱き締めた


「っブン」
「バカだろぃ」
「な」
「俺だって、にひどいこと言った」
「でもそれは私が…」
「…気づけよ」
「え?」

「全部俺を好きだったからしたんだろぃ?確かに最低なことかもしんねぇけど、もうそんなことどうでもいいんだよ」


そう言って、彼はにかっと笑った。
…大好き、彼の笑顔。
また、しかもこういう形で、見れることになるなんて。


「…赤也には、すごく酷いことをしました」
「だな。…一緒に、謝りに行くか!」
「えええええ!?(それって逆に…!)」
「こういうのはハッキリしてるほうがいーんだよ」


ブン太先輩は大丈夫だというふうに優しく微笑んだかと思うと、私の額にキスを落とした
真っ赤になる私を見て嬉しそうに微笑みながら、私の手をとり歩き出す

傷つけてしまった彼のもとへ。
赤也は怒るだろうか。うん、きっと怒ると思う。
でも、きっと許してくれるんだ。彼は…とても優しい人だから。
だからこそ私の罪悪感は大きい。でも、少し軽くなった。今、私の隣に居る人のおかげで。

赤也への最大の償いは、きっと私とブン太先輩が幸せで居ることだと思う
だから、きっと大丈夫。
今は無理でも…またすぐに、私たちに笑顔で応えてくれるよ





あれから数日が経った、休日。

バタバタと家の中を走り回る。


「あ〜も〜あのバッグどこ行ったのー!?」
「知らないわよ」
「お母さんつめたいー!」
「用意しておかなかったアンタが悪いんでしょ」


自分の部屋に戻りクローゼットの中を探る。と、


「あった!!」


バッグを引っつかみ、いるものをすべて詰め込む
鏡の前で身なりチェック。うん、別にへんなところは無い。


ピンポーン


丁度そのとき、家の呼び鈴がなった。


「じゃあ、行ってきます!」
「はいはい。あんまり遅くならないようにね」
「はーい」


そう叫んで、家を出た。
門の前に立っていたのは、


「ブン太先輩っ」
「よ!お、可愛いぜぃ」
「あっありがとうございます、でも ブン太先輩のほうこそ、かっこいいですよ」
「そ、そうか?サンキュ…」
「…」
「…」


褒めあって、照れあう。
なんか私たちって、バカップル?

でもそんなかけあいでさえ愛しくて、思わず頬が緩んでしまい、
それに気づいたブン太先輩も微笑んで、私の手をとった


「んじゃ、行こうぜぃ!」
「はいっ」



2人並んで、歩き出す。

向かう先は未来。


きっと、幸せな 未来。














END





08/01/12

1周年御礼企画 秋月 椛様リクエスト。

遅くなり申し訳ありませんorz
気がつけば1周年どころか2周年、それどころか06年から08年になってしまいました
まだこのサイトに来てくださってるかは不明ですが捧げます。
なんか全然甘っぽくなくて申し訳ないです…
つかなんか、ヒロイン性格悪…いわけじゃないけどなんか…!

超絶駄文ですが、椛様に捧げますっ…!

1周年、リクエスト、有難うございましたっ

椛様のみ苦情可。

             By 紫陽華恋