「…あ、そっか今日現世ではお正月なんだ」

ふと、が空を見上げながら呟いた。

「お正月?」
「あ、そっか東仙さんは日本人じゃないですもんね。
 えっとですね、1月1日から3日までのことを日本ではお正月って言うんです。
 年が明けたーってことで、それをみんなで祝うんですよ」
「ああ…年が明けて祝うのはこちらも同じだった」
「お正月ぅ?なんだったっけな…」
「剣八忘れたのー?馬鹿じゃん」
「うるせぇ!」





A Happy new year
         - BLEACH -





「んー…何か騒ぎたいなぁ」
「ほなら、自分の特技を使うたらえェやん」
「狽ぎゃっ!ギ、ギンさん…!?いきなり背後に立たないでてくださいよ!」

背後、しかも至近距離から聞こえた声に、は飛び上がりズザッと3歩ほどそこから離れた。
振り向いたところにいたのは、三番隊隊長 市丸ギン。

「堪忍なァ。…それより、えェアイデアやとは思わん?」
「え?あー…特技、とかいうやつですか?」

何のことだかよく分かっていないにギンはニッと微笑むと、自らの斬魄刀に触れて見せた

「斬魄刀…?っていうか帯刀許可降りてないのになんであたかも当たり前のように帯刀してるんですか
「キミの、斬魄刀。」
「…?」
「『華天狗』。…花びら」
「!…そういう、ことですか」

ギンの言わんとすることを、はようやく理解した
隊舎においてある斬魄刀を思い浮かべる

「まァ無理やと思うけど…六番隊隊長さんに協力してもろうたら助かるんとちゃうのん?」
「そうですね…早速お願いしてきます。ありがとうございましたギンさん!!」
「いや、別にえェよ―――……って、もう行ってしもたか」










「あぁ?伝言だ?」
「そう。総隊長さんに伝えてきてほしいの。
 今日午後7時、死神全員各自酒などを持って中央修練場集合って
 あと、私と6番隊隊長さんの帯刀許可」
「何でオレが…」
「とーしろしか頼めないんだよ…お願い…」
「(ドキッ)……ったくしゃーねーな。行ってきてやるよ」

惚れた弱みというやつか。
日番谷は結局の“お願い”を受け、総隊長の許へ向かうため、瞬歩でその場から消えた
は相変わらずのその速さに感激してから、 「こうしてはいられない」 と
瞬歩ほどではないものの、自慢の俊足で素早くその場を立ち去った

どうせなら 騒げるだけ騒ぎたい。

( そのためには、精一杯頑張らなくては! )










午後7時…3分前。

瀞霊廷内にあるいくつもの修練所たちの丁度中心に位置し、最大の規模を誇る野外修練場、中央修練場には
瀞霊廷内の殆どの死神たちは酒にそのつまみなどを持参して集まっていた

と、ある人物は、中央修練場のさらに中央に位置する休憩所の屋根の上でそれを見下ろしていた

日も沈みきり、死神たちもこれから何が起こるのかという期待で興奮し、たちの姿には気づかない

チッ…チッ…と時は進み、10秒前になると、は斬魄刀を構えた

「10秒前です。…いきますよ」
「ああ」

「5、4、3、2…」





「舞い踊れ  華天狗!」

「散れ  千本桜」





ぶわぁあっ…


刹那、降り注いだのは億千もの花びら。
と共にいた人物――百哉が出した花びらは刃なので死神たちに降り注ぐことはなく空でただ舞っているだけだが、
の出した花びらは本物なので、躊躇うことなく花びらたちは死神たちの上に降り注ぐ



闇に映える 鮮やかな色たち

幻想的な風景に、死神たちはしばし言葉を失っていた。



それに追い討ち(?)をかけるように、は斬魄刀・華天狗の効果で自らに花びらの羽を作り出すと、
その幻想的風景に自らも入り込み、空中で美しい舞を舞いだした
それがまた美しく、以前からに惚れてたものは惚れ直し、の存在を知らなかった者もに恋に落ちたりした

舞い終えるとは百哉のもとへと戻り、斬魄刀を鞘へと戻した
けれど花びらは消えることはない。あれは刀でなく本物の花びらなのだから

「ありがとうございました百哉さん!本当に助かりました」
「ああ」
「でも、少しっていうかかなり意外でした」
「?何がだ?」
「百哉さん、こういうの嫌いそうだったから…OKもらえてすっごい嬉しかったです」

そう言えば、百哉さんは少し目を見開いてから、口を開いた

「…確かに、こういう騒がしいことは嫌いだ」
「あ、やっぱり…」
「だが」
「だが?」

一拍置いてから、百哉さんは再び口を開いた
―――滅多に見れない、微笑みと共に。


「 花びらが舞う景色は 嫌いじゃない 」


「…そういうことですか」
「…では、私は隊舎へ戻らせてもらおう」
「あ、はい 本当にありがとうございましたー!」

百哉はに背を向け、一歩、二歩と歩いたところで瞬歩によりふっと姿を消した

はそれを見送りきると、屋根の上から、死神たちに向かって大声で叫んだ

「あけましておめでとうございまーす みなさーん!」
「「 ! 」」

そこらじゅうから、 「さっきの舞綺麗だったぜ」 やら、 「あけましておめでとうってどういうことだ」 やら、 「好きだー!」 やら(ェ
色んな声が飛んでくる中、はそれらを無視し言葉を続けた

「今日は現世の日本で言うところのお正月です!また1年が終わって新しい年がきたんですよ!!」

またそこらじゅうから 「年なんてもう数えることができねーくらい終わって始まってるだろー」 と声が飛んでくる。
そりゃそうだ。死神たちにとって一生とはあまりに長く、1年などはあまりに短く早く過ぎていく。
何故そんなことを一々祝うのかという気持ちでいっぱいだった

「いいじゃんかー!!騒ぎたくなったんだよー!!」

非難の声にキレてが叫ぶと、 「そうだ、騒ぐことはいいことだ」 と十一番隊の面々が同意する
戦いも勝負も好きだが、酒も好きだし祭りが大好きな十一番隊がの言葉に同意しないはずがない。

「まーとりあえずみんなで騒ごうってことですからー!!!」

そう叫ぶとはふっとその場から消えた
次に現れた場所は…

「とーしろ」
「狽チ!?テメー何で急に俺んところに来やがるんだ」
「お礼言おうと思って」
「礼?」
「ちゃんと総隊長さんに言ってくれたじゃん。だから地獄蝶のおかげでこれだけの死神たちが集まったし舞だって舞えたんだから」
「そんなのは、別に…。俺は、お前の頼みならっ」
「あー乱菊さーん!」
ちゃーん!」
「…。」

は日番谷の言葉を最後まで聞くことなく、乱菊のもとへ。
あの豊かな胸で迎えられ、と乱菊は楽しそうに会話を交わしている
どうやら早くも乱菊は酔っているらしく、いつも以上に絡んできている

「あーもうちゃんは相変わらず可愛いなぁもう!」
ぶふっ!く、苦し…乱菊さ…!」

豊かな胸にはさまれ、が窒息死しそうになっていると、それを見かねた恋次がを乱菊の胸から引っ張り出した

「大丈夫かよ…」
「あ、恋次くん…!ありがとう…生き返ったよー…。酔った乱菊さんは怖いな」
「ああ」
「大丈夫?ちゃん…」
「桃ちゃん!大丈夫だよ あはは…」

その後ろにはイヅルもいた。
ぺこりと頭を下げられたので、も頭を下げ返す

「( ?? )」

しかし、何故頭を下げられるのか理解していないが。なんせヒラである自分が副隊長である吉良に頭を下げられたのだ。
その様子を見て恋次が説明すべく口を開いた

「吉良のヤツ、隊長でもなんでもないのに隊長、しかも市丸隊長に対等に渡り合えるお前を只者じゃねぇと思ってんだよ
 まぁその通りだけどな」
「どこが!?」
「んーさっきの舞とか?」
「えぇー…あれは流魄街にいたとき気がつけば身に付けていたものだし
「マジかよ。お前やっぱ只者じゃねぇよ」

は苦笑した
そしてそこへ新たな客が。

「まさかホンマに六番隊隊長さんがOK出すなんてなァ…」
「あ、ギンさん。ほんと提案ありがとうございました。大成功です」
「めっちゃキレイやったよ、ちゃん」
「有難うございます」
「来年もよろしゅうな」
「はい!」

そんな2人…というかを、吉良はやはり只者じゃないという目で見ていた

「おーい!ちょっとこっち来てくれ」
「おぉひさぎさん何ですかー?」


そのあともは引っ張りだこだった

その晩、瀞霊廷内はこれ以上ないという程の騒ぎようだったという。


は楽しそうな死神たちを見て、微笑んだ


「( 今年もいい1年になりそうだ )」


願わくば、死神たち、そしてすべての魂魄と命に 等しき幸せを。





今年もよい1年でありますように


のその願いを叶えようとするかのように、花びらたちはいつまでも 静かに美しく舞っていた。





( [ Love Mistake. ] 紫陽 華恋 2周年・300000HIT御礼フリー小説 )

----------この下は切り取ってくれてかまいません----------

2007年のラブミス。年賀企画にて、年賀メールにのみアドレスをのっけて配布したフリー小説。
まあつまり企画に参加した人のみが知る隠された(?)年賀夢ですね
もう1年も経てば時効だろうと30万/2周年の方に入れちゃいます。エヘ。