金曜日、部活終了後。 マネージャー…私とを残し、部員達が全員帰っていった マネージャーを残したのは、部誌を書かなければいけないから。 ただ、それだけ。 「ちゃん」 「…なぁに?さん」 「部誌は私がやっとくから、帰っていいよ」 「え?」 「聞こえなかった?」 「…聞こえたわ じゃぁ、お言葉に甘えさせてもらうわね さよなら」 「うん、バイバイ」 パタン 部室の扉は無機質に閉められた 静かな部室で一人、黙々と部誌を書いて――たんだけど。 ――ガチャ… 「!…不二…?」 「や。」 にっこり笑って挨拶する不二に、体は停止。ぶっちゃけ逃げようかと思った。 …ていうか、 何の御用ですか 「ちょっと、忘れ物しちゃってさ」 そう言って私の隣に腰掛ける不二。 …ちょっと待ってください 「不二クン?」 「何かな?」 「忘れ物、したんでしょ?早く探せば?」 「うん、忘れ物って言うのはさ」 そしてゆっくり開眼した不二の瞳に、私の体は警告を鳴らした 「キミをデートに誘おうと思って、忘れてたんだv」 ――逃げれば良かったかな… プレゼント 不二の忘れ物… デートの誘いをされた、その翌日 ちょうど、部活がオフの土曜日。 私は半ば脅しに近いお願いをされて、今、待ち合わせ場所にいる(どんなお願いかはナイショってことで…) 「(てか誘った本人まだかよ)」 心の中で突っ込みながら、待ち合わせ場所である駅前のベンチに腰掛けて、不二の到着を待っていた 嫌々ながらも、素直に来てるあたり、私もバカなんだろうな、なんて思ったりしながら。 「っ ごめん、遅くなって」 「不二!アンタ遅――…って…なに、持ってんの…?」 「え?見て分からない?」 「…サボテン?」 「クス、そうだよ?」 いつもの胡散臭い笑みを浮かべながら、不二が持っているのは紛れも無くサボテン。 ご丁寧にラッピングされ、ちょこんと乗っている 「ごめんね ラッピングに予想以上に手間取っちゃって」 「…え、コレ アンタがやったの?」 「そうだよ」 「(…意外…)」 可愛い顔して中身真っ黒な魔王様が(誰の事かな? ニコ By不二 周助) こんな愛らしいラッピングを出来るとは… 「ていうか…その前に、このサボテン 何?」 「にあげようと思って」 「マジですか」 「うん、マジだよ」 さらりと言われた言葉に、脱力した。 何故にいきなりサボテン? 「家…寂しいんじゃないかな、と思ってさ…」 「え?」 「何でもないよ あ、コレはまた帰りに渡すよ」 「はぁ…」 不二の最初の言葉は小さくて聞こえなかったけれど、その横顔が哀しげに見えたので聞き返したけど、 いつもの調子で微笑んでサボテンを上着のポケットに入れた不二に、気のせいか、とその考えを遮断した 「で、今日は何処へ行くご予定で?」 「キミの行きたい所」 「…は?」 「だから、キミの行きたい所は何処だい?何処へでも連れて行ってあげるよ」 唖然。 どこか行きたいところがあるから私を無理矢理誘ったんじゃなかったの? 「まぁまぁ良いから。とにかく、どこ行きたい?」 「……じゃぁ 水族館」 「うん、じゃ 行こうか」 「(マジですか)」 不二に手を引かれ、駅内へと入っていく。 さり気なくて、さり気な過ぎて反応が遅れたけど、 「て、てててて…」 「て?あぁ、手? いいじゃない、デートなんだし」 「ででで、でーと…」 「ん?そうでしょ?」 デート…っていうデートをするのは…初めてだ… が来るまでは、みんなでワイワイ遊びに行ったりしてたけど… 「クス、照れてる顔も、可愛いよ」 「!!!!」 いつの間にか切符は2人分買われていて、気が付けば手を引かれて改札口をすり抜けていた。 頭が再起動して切符代払うって言ったら、「いいよ、今日はボクのおごりだから」って拒否された。 「水族館…はじめて来た…」 「そうなの?」 手を繋いで歩くことにも慣れてしまって、多分、はたから見れば恋人同士にしか見えないであろう私たち (…あ、でも不二って格好良い…ていうかとにかく綺麗さんだから、私なんか彼女に見えないか ていうか寧ろ女同士に見れらたりして…) 「あのね、。今すっごい失礼なこと考えてるでしょ」 「え!?」 「ボクが女に見えるとか」 「(!!! さすが魔王様…!)」 コイツと居ると心臓がもたない… 色んな意味でドキドキします 「ほら、見ないの?」 「あ、ううん、見る…」 初めて来た水族館は 色んな驚きや好奇心を 私に与えた 大きな水槽に、いっぱいの水 色んな魚に加え、大きな鯨やちっちゃな名前も知らない魚まで。 「…それにしても、水族館に来たことないって言うのも…珍しいね」 「親、いないし…ていうかもしかしたら来てるのかも…記憶が無いだけで…」 「え…?」 「あ ちちちち、違うの、深い意味はなくて!あ、ほらペンギンだよ 見よっ」 …ワザとらしかったかもしれない それでもこれ以上問い詰めて欲しくない、というのは伝わったのか、不二がそれ以上問うて来る事はなかった 水族館を三分の二くらい見て回ったであろう時、ラッコの水槽へ辿り着いた 「ラッコだー…」 「フフ、可愛いね」 「うん…」 相変わらず、手を繋いだまま、ラッコを見つめていた。 確かにそこには 静かな空気が流れていた――… …んだけども 「あーっ!?だCー!!!」 「アーン?ホントか、ジロー」 「ほらほらあそこっ!…て…デ、デート中っ!?」 「アーン!?」 …前言撤回 うるさすぎて、耳が痛いです 「で?不二。ワケを聞かせてもらおうか」 「何かな?跡部」 「と手ぇ繋いでデートしてた理由だよ」 「特に無いけど?」 「アーン?」 水族館内のカフェテリアにて、景吾と不二はそんな会話を繰り広げていた…らしい。 らしいってのは、私はそんな会話には目もくれず、お久しぶりなジローちゃんと会話していたからだ 「久しぶりだね、ジローちゃん」 景吾の幼馴染である私は、同じく景吾の幼馴染であるジローちゃんとも 知り合いなワケで 逆もまたしかり。 「マジマジ!に会えて嬉Cーvv 益々可愛く…ってか、綺麗になった!」 「ふふ、お世辞でも嬉しいよ、ありがと。」 癒される! 最高の癒しアイテムだわ! 「(お世辞じゃないんだけどなー…) でも、胸はそんなにおっきくなってないねー」 …これさえ無ければなv 「イテテテテ!カンベン!マジカンベン!」 「じゃぁもう余計なこと言わないでよね」 「ハーイ…」 ジローちゃんは純粋にエロい。 困ったものだわ 「…まぁとにかく、だ …!ジローとイチャこいてねぇで話を聞け」 「何よ 景くん」 「…、お前らのデートに 俺様達も加えさせてもらうぞ」 「は?」 「跡部がね、跡部もとデートしたいって駄々こねるんだ「誰がダダこねたんだよ」 …だから、じゃぁ一緒にダブルデート(?)すればいいじゃない、ってことになってさ」 …私を於いて、何勝手に話を進めてるんでしょうか このお方達は。 いや、私がジローちゃんと喋ってた所為かもしんないけど 「…拒否権なし?」 「当たり前だ」「当たり前じゃない」「当たり前だC〜」 仲良く首を縦に振った2人と いつの間にか賛同していたジローちゃんに、私は思いっきり脱力した 水族館を出て、今は街中をブラついている もう時刻は夕方で、辺りは夕焼け色に染まっていた。 「…」 右には、跡部 左には、不二 そして目の前には完全に起きてるジローちゃん。 美形に囲まれた私を、すれ違う女達は睨みつけてくる 「…」 「あ!なぁなぁ 皆でプリクラ撮んねぇ!?」 「「「…は?」」」 ジローちゃんの視線の先にはゲームセンター。 プリクラの宣伝ポスターが、でかでかと貼られている ジローちゃんが言った一言に、私たち3人はその場に立ち尽くすほかなかった… 『ハイ☆チーズ★』 パシャッ 「「「…」」」 「わひょー!今のプリクラってスゲーのなー!」 いつの間にプリクラを撮る事になったんでしょう …ていうか、撮ってるんでしょうか。 相も変わらず右には跡部、左には不二 前にはジローちゃんが居て、時折抱きついてくる… 「…1枚くらい皆笑おー?」 「ヤダ…」 乗り気なのはアンタだけなのよ、ジローちゃん。 …と思ってたんだけど 「最後の一枚行くぜー!」 『ハイ☆チーズ★』 ちゅ×2 (…ん?) パシャッ 「なんばしよっとねーーー!!?」 画面に『ラクガキコーナーへ移動してね☆★』とか書かれた文字とか、順番待ちしてる女の子とか全てを忘れて 叫んだ。 「(何故に九州弁…)」 「何って…“ホッペにちゅー”だけど?」 「あああああああああ言わないでー!」 「が何するのって言うから答えたんじゃないか」 最後の1枚を撮る刹那、跡部と不二が同時にホッペにちゅ、チューをしてきやがりまして 見事にその瞬間がプリクラに収められてしまいました そしてその写真にジローちゃんは楽しそうにラクガキをしております… …疲れた もうどうにでもなりやがれ…(ヤケ) 「はいっ人数分切ったよ!」 ゲーセンに添付されていたハサミでいつの間にか人数分に切り分けたらしいプリクラを、 ジローちゃんはニッコリ笑って私たちに差し出した 私は半ば放心状態でソレを受け取る。 恐る恐る見ると、ホッペにチューはやっぱりあって、『ラブラブvv』なんてラキガキがしてあった。 …小さく、『三角関係〜☆』なんて書いてある。 ……はぁ…… 「私 もう帰る…」 「えー?もう帰っちゃうのー!?」 「疲れた。マジで疲れた。アンタ達にはもう付いていけないわ…サヨナラ」 「あ、待って 送って行くよ」 不二が駆け寄ってきた気がするけどどうでもいいや さっさと帰りたいです… 「あ、そうだ ハイ、これ」 電車に乗って最寄の駅まで帰ってきて、駅前で不二がポケットから何かを取り出した 「あ…サボテン …と、ペンギン?」 「、水族館でペンギンにとてつもなく見入ってたからね」 「…アリガト」 サボテンと一緒に渡されたのは、小さなペンギンのガラスの置物。 受け取って、鞄に入れた 「…今日は 楽しかった?」 「…疲れた」 「あはは、そっか ごめんね」 …本当は、楽しかった。 水族館に行くのも初めてで、それ以前に、いつも青学では神経張ってばっかだったから、 いい息抜きになったし 4人っていう、私にすれば大勢の人数で騒いだのも、久しぶりだった 「…ウソ、ごめん 楽しかったよ ありがとう」 やっぱり、ちゃんとお礼を言っておこう。(ついでに微笑っておこう) ほんとに、ありがとう 「…」 私がお礼を言ったのが意外だったのか、不二は少し固まった。 けれど、すぐにいつもの笑顔に戻る 「(イキナリその笑みは反則だよ…) …今日、デートに誘ったのは キミに息抜きさせたかったからなんだ」 「うん」 「サボテンをあげたのは…寂しいんじゃないかと、思ってね」 「…え?」 寂しい…? 「青学に居る時のキミは、神経張り詰めてはいるものの、ボクや越前や乾…そしてが居て」 「…」 「けど、時々… 部活帰りだとか、はたまた青学に着く前だとか 時折見かけるキミの表情は…とても、寂しそうだから」 「・・・!」 「家で、寂しい思いをしてるんじゃないかと思ってね」 そう言って優しく微笑んだ不二の笑みは、今まで見てきた胡散臭い笑みとか黒い笑みとかじゃなく、 純粋に優しかった。 …故に、とても安心した 「…ありがとう」 「フフ、どういたしまして。 それじゃ、気をつけてね」 「…うん」 優しくて、安心して 泣きそうになった けど、私はまた、泣いてる場合じゃない 前を向かなきゃならない 泣くのは、すべてを終わらせてからでいい。 その日から、の部屋の窓際の棚の上に、小さなサボテンと小さなペンギンの姿があったかどうかは…のみが知る END 06/4/06 50000HIT御礼企画 あずさ 様リクエスト。 …ほ、ほのぼの?してます???(汗) なんだろうコレ…そしてジローちゃんがこんなところで初登場してしまいました なんかもうすみません… 駄文ですが、あずささんに捧げます…! 50000HIT、リクエスト、有難うございました! あずさ様のみ苦情可。 (お持ち帰りの際は背景の直リンクだけはしないでくださいませ) By 紫陽華恋 |