涙の溜まった瞳が揺れている。その滲んだ世界にいるのは僕だろう? キミの濡れた瞳に映る僕は嗤っていた。 とても愉快そうに、滑稽そうに、唇を歪めて、…瞳から、何か 透明の液体を流して。 きっとキミにも見えているんだろう?僕の瞳に映る自分の姿。 どれだけ滑稽なのかな?愛する男に、彼氏であるはずの男に、恐怖し 涙する姿は。 先に歪んだのは、 キミ きょうふにゆらぐひとみ 「…?何やってるの」 「あ、恭弥。みて、わたしも弱っちぃ群れる草食動物、噛み殺したんだよ」 そう言って彼女が指差す先には、血まみれの、不良っぽい男達。…生きているとは 思えない 「殺したの?」 「うん。だって、群れてたから」 恭弥、群れる奴ら キライでしょ? そう言って笑うキミがどうしようもなく醜くて、滑稽で、痛々しくて…愛しかった。 …は、暴力などふるわなかった。むしろ、大きらいだった。僕のすることに、いつも文句を言っていた。 それがどうだろう?ある日突然、彼女は人を殺した。それも、数人。 驚きだとか、そんな感情の前に、ただ、思った。 どうしたの? 「あ、あの…ヒバリさん」 「…沢田 綱吉?」 「ハ、ハイッ!」 「何の用?」 「あの…のことで」 と沢田が幼なじみだということは知っていた。だから、言葉を聞いたんだ 「…なに」 「……実は、の唯一の肉親だったお兄さんが…町で偶然あった不良にからまれてリンチされて…その…」 「死んだの」 「!…はい」 「………そう」 キミが変わってしまった理由を知ってしまった。 けれど、それは思っていたよりもあっさりな出来事。僕にとっては。 彼女にとっては…きっと、天地がひっくり返るよりも僕にトンファーで殴られるよりも、信じがたいことだったのだろう そして故に、赦せなかった。 だから不良たちを次々と殺すようになったんだね。 …でも、まだそれだけならよかったよ。でも、ねぇ キミ 昨日、一般人にまで手を出してしまったんだろう?( 死んではいないけどね ) しかもその相手はあの沢田だって言うじゃないか。( ある意味一般人じゃあないけど ) 不本意ながらとはいえ、僕のボンゴレファミリー入りは決まっているようなものなんだよ? そして沢田がボスになるということも。 ねぇ、 知ってる? 僕の役目。 「並盛の秩序を守り、沢田を護る役目が僕にはあるんだよ」 後者は不本意ながらだとしても。(あの条件がなければ受け入れるはずが無かった)(でも自分で決めたことだからね) そう、僕の役目は守ることと護ること。そしてその妨げは 「、キミだよ」 邪魔なのは、キミなんだ。…僕の唯一愛した キミ なん だ 。 「ねぇ 」 「なぁに、恭弥」 キミはもう動かない屍の上で 血に濡れたナイフを握りながら 僕に振り向いた 「僕、今日も仕事なんだ」 「そうなんだ。恭弥は、いそがしいもんね」 「それでね、今日のターゲットは…」 「キミ、だよ 」 「…え……?」 ヒュオッ ガキィイイイイン…! 振りかざしたトンファーが、の後ろの壁に突き刺さった。パラパラと、破片が落ちる 「きょう や…?」 「も知ってるよね。僕の役目」 「やくめ…」 「並盛の秩序を守り、そして…沢田を護るという役目」 「…っ」 「キミは今、僕にとって何よりも邪魔な存在なんだよ」 壁からトンファーを引き抜き、そのままもう一度振り下ろす。 …さすが、今までこれだけ不良たちを殺してきただけはある。はそれをさらりとかわした 「恭、弥…わたしを…」 「噛み殺す」 「…!」 その言葉、自分にだけは一生向けられるはずないと思っていたんだろう、の表情は凍りついた。 …僕も、キミにだけは 向けたくなんてなかったし、一生向けるはずなんてないと思っていたよ 「恭弥は…私のこと、嫌いになったの…?」 「…莫迦だね は」 「僕はを愛してるよ。ずっと、これからも。」 そしての腹に一発、トンファーを打ち込んだ。 「うっ」という呻き声と共には壁にもたれかかり、ずるずると座り込む 「ぜんぶ、キミの所為だよ 」 「・・、っ……、…?」 「最後の肉親だった人が死んだだけで 壊れるなんて」 「!!ひど、い…私にとって、お兄ちゃんは…最後の…家族だった、の…!」 「……の方が、よっぽどひどいよ」 「!?…な、」 「もう 僕はのこと、ちゃんと“家族”だと思ってたのに」 落とされた言葉に、キミは目を見開いた。…本当、ひどいね キミ 「いずれ本当の家族になるんだって、本気で思ってたんだよ?」 こんな場面じゃなければ、こんなの甘い甘いプロポーズの言葉にしか成り得ないんだろうね。 はは、笑えるよ。今の状況は、あまりにも甘いプロポーズを吐くには不釣合いすぎる 「きょう、や」 「…だから、もう 駄目だよ。僕じゃなくて、兄なんかの存在だけでそんな風になってしまったが悪いんだ」 「…恭、弥」 そう、これの始まりはただのヤキモチ、嫉妬からだ。 僕じゃなくて、兄の死だけでそんなにも壊れてしまうなんて。悲しくて悔しくて、僕までもが壊れてしまった 「だから連れて行ってあげる。キミの言う、最後の家族のところへ。」 「!!」 目を見開く。何かを言おうとしたその唇が少し開いた瞬間、僕はトンファーを振り下ろした。 抵抗もしない。ただ、血が飛び散る。僕のシャツに、血がついていく。キミの。の。愛する人の。血が。 「、は…ぅ…がはっ…はぁ…」 苦しそうに呼吸をする。もうその姿はボロボロだ。 あらゆるところから血が流れ、涙も、止め処なく流れている。 ふ、と 彼女が顔をあげた。目が合う。 恐怖に揺らぐ瞳に、僕が映っていた。 その瞳に浮かんでいたのは涙、そして恐怖。 僕のことが怖い?そう、恐いんだね。 つい数日前までは、一緒に風紀委員の仕事をしたり ベッドの中で照れ隠しに囁きあったりしていたのね 「ねぇ」 「恭…弥……やだ、やだ……やだよ…」 「愛してるよ」 「いやあああああああああ!!」 彼女の、断末魔が 夜の裏路地に虚しく響いてから、消 え た 。 先に歪んだのはキミ。 でもあまりに歪んでしまったのは僕だって、ちゃんと 分かってたよ ごめんね、 ( 守る護る役目という自分のプライドをまもるために、僕は キミを。 ) 愛してる 思い出すのは、あの時恐怖に揺らいだ瞳が優しく細められて笑っていたキミの、すがた。 |