のらねこ。- 02 -











お好み焼き屋に行く途中、ブン太センパイはある路地を気にしていた。
帰る途中なんて、気にするどころか立ち止まり、じっと一点を見つめて。
俺は、どうしたのかと思いブン太センパイの元へと戻ろうとした
仁王センパイもそれに気づき俺と一緒にもと来た道を戻る ( と言ってもほんの数メートルだけど )

「どうしたんスか センパ」
「や、別に」

俺たちが行き着く前に、ブン太センパイはこちらへ歩いてきた
あれだけ気にしていた路地を、一度も振り返ることなく。
――― なんだか、複雑な顔をしながら。

俺はすぐにブン太センパイを追いかけた
仁王センパイも少しだけ遅れて付いてきて、俺たち3人は他の5人に遅れて、ホテルに戻った。





翌日、旅行2日目。いきなりの自由行動日。
同室ということもあるし元々部活内では特別仲のいい
俺、ブン太センパイ、仁王センパイの3人でホテルを出て、適当にぶらついていた。
特に向かう場所なんてなくて、( 柳センパイとかならまだしも、俺たちが予定をきちんと立てたりするわけない )
とりあえず“アメリカ村”に向かい、立ち並ぶ様々な店を見て歩く
途中昼飯にマックに入り ( 「マクド」という単語が聞こえて感動した )
またうろついて、3時ごろお茶しにスタバに入って。
そろそろ疲れてホテルに戻ろうという時に、何故かブン太センパイはコンビニへ入った
何かと思いきや、…おにぎり5コと、ジュースを買って、ブン太センパイはコンビニから出てきた。

「ちょ、アンタ何買ってるんスか!」
 マックでセット5つも食べたっしょ!?スタバでも、キャラメルフラペチーノ3杯も…」
「だって腹減ったんだよ。仕方ねぇだろぃ?」

そんな相変わらずのブラックホール胃袋のブン太センパイに、俺は思わず仁王センパイに視線を向けた
けど、仁王センパイはただ苦笑して、

「まぁ、ブン太じゃしの」

そう言った。まるで、諦めろ とでも言うように。



そのままフラフラとホテルへと向かい、あと数メートル…というところで、

ブン太センパイが、立ち止まった。

「?ブン太センパ」
「ちょっと、付いて来てくれぃ」
「っえ?ちょ、」

俺や仁王センパイが止めるより早く、ブン太センパイは駆け出した
はじかれたように、俺も、仁王センパイも後を追いかけ。

ある時、ブン太センパイはピタッと立ち止まった。俺たちも立ち止まる
そこは、

あの 路地。

「…ブン太センパイ…?」

俺の声も聞こえてないみたいに、ブン太センパイはじっとなにかを見つめている
そのなにかが気になって俺もその路地を覗き込むと、

――――― 人間が、いた。

ところどころ汚れたパーカーに、ハーフパンツを履いた、男か女か分からないような、その子は
ブン太センパイをじっと見つめ返していた。
性別も名前さえも分からないけど、ただ言えることは、


その子の目が 異様に澄み切っていた  ということだけ。


ブン太センパイが、一瞬躊躇うようにしてから 口を開く

「…お前、名前は?」

その言葉にその子はぴくっと反応すると、一瞬さびしそうな顔をしてから、ゆっくりと 言葉を紡いだ

「名前は、ない」
「…は?」
「名前はないよ。だって僕、野良猫だから」

どう見たって人間に見えるその子は、
意味が分からず何も言葉を発せないでいる俺たち3人を放ったらかしにしたまま、さらに言葉を紡いだ

そう、――――― ゆっくりと。


「 野良猫に、名前は要らないから 」


そのときのこいつの表情を、俺はきっと忘れることなんて出来ないだろう。





ふたたび地元ネタすみませ!
でも微妙に地元じゃないような?だってあんな都会に住んでないもん私(笑)