のらねこ。- 03 - 「…は?」 声を上げたのは、赤也。 俺と仁王は声さえ上げなかったものの、相当変な顔をしていると思う。 なんでって…そりゃぁ、 目の前にいる“少年”が、意味不明な発言をしたからに、他ならない。 「…お前、名前は?」 何故名前を聞いたかなんて分からない。 ただ何となく、放っておけない、と 思ったんだ。 けれど、その問いに返ってきた言葉はその子の名前ではなく、 「名前は、ない」 そして、 「名前はないよ。だって僕、野良猫だから」 そんな、意味不明な発言。 明らかに、どう見たって人間だ。 漫画やアニメみたいに、猫が人間になったーなんてことを信じるほど、俺はガキじゃないし、 まぁ確かに、目はちょっと 猫目っぽいけど… そんなことが頭の中をぐるぐるまわっているうちに、少年はさらに言葉を続けた 愁いを秘めた、寂寥を匂わせる、ゆっくりとした 声で 「 野良猫に、名前は要らないから 」 そして冒頭部分に戻るのだ。 俺たち3人は相変わらずわけが分からないまま立ち尽くす 一番先に現実世界に戻ってきたのは、仁王だった。 仁王はゆっくりとソイツに歩み寄ると、三角座りしているソイツに目線を合わせるようにしゃがんだ 俺は斜め後ろくらいから見てたから、はっきりとは分からないけれど。 仁王が、優しく微笑んだ。 たぶん、今まで俺たちが見たことも無いような 微笑を、浮かべたのだ。 それを見て、少年は一瞬、ほっとしたような表情を見せるが、またすぐに寂しそうな表情を浮かべた 「…僕は、野良猫だから…きみたちもどうせ、すぐに僕から関心をなくすんでしょ?」 その言葉で、やっと俺は現実世界に戻ってこれた。 きみたちも。 それはつまり、今までも俺たちみたいな奴が、いたってこと だろうか。 再び頭の中をぐるぐると色んなことが回りだす、が 仁王が再び口を開いたことで、それはとまった 「さぁのぅ…そうかもしれん。じゃが、今お前さんに関心があることは確か。 俺たちは旅行でここにおるだけじゃから数日後にはもう元いた場所に帰ってまうが… ここにいるうちは、お前さんに、関心は持ち続ける」 「…ふぅん…?」 「じゃから、名前教えて?ないんじゃったら、俺がつける」 「ないって、言ってるでしょ。僕は野良猫だから。…要らないし、名前」 その言葉に仁王は一瞬憂いを帯びた表情を見せる そして、少年に手を伸ばし、その頭を撫でた 「残念じゃったの。野良猫に名前は要らないなんてこと、ないぜよ。 野良猫だって、一時の関心とはいえ人間に可愛がられるときもあるもんじゃ 一時の名前くらい、あったってエエじゃろ?」 「…。」 「野良猫…そうじゃの、のらにするか。お前さんは今からのらじゃ。俺が、そう呼ぶ」 「…のら…」 少年…、いや のらの表情が、一瞬嬉しそうに笑顔を浮かべた。 けれどそれは本当に一瞬で、すぐに無表情に近いものに戻ったけど。 何を言おうとしたのかは分からねぇけど、俺が口を開こうとした、その時。 ぐぅ〜… …お腹が鳴る音が、聞こえた。 ――――― のらから。 「…っぶは!お前腹減ってたのか?」 「…」 のらは少しだけ恥ずかしそうに目線を明後日の方向へやると、こく と頷いた 俺はさっきコンビニで買ったおにぎりをまだ食べてなかったことを思い出し、それを取り出す 「ほら、のら。これやるよ」 「きみも…のらって呼ぶの?てか…くれるの?」 「ああ」 そう言ってニッと笑ってやると、のらは満面の笑みを浮かべ、 「ありがとう!」 そう言った。 その表情は、すごく輝いてて。 なんだか、無性に嬉しくなった。 「きみ、名前は?」 「俺?俺は丸井 ブン太」 「ブン太ね。ありがとうブン太っ!」 のらはそう言って俺に抱きついた 今までののらはなんか素っ気無い感じだったから、すげぇびっくりしたけど、なんか嬉しかった。 のらは俺に抱きついたまま、仁王に顔を向ける 「きみは?」 「…仁王 雅治」 「雅治!」 のらはそう叫びながら仁王に抱きつく そのとき、俺の背後から、…なんとなく完全に忘れられていた、 赤也の声が。 「切原 赤也!」 のらは少しびっくりしたようだったけど、すぐに嬉しそうに笑って赤也にも抱きついていった …なんか、まだ 全然意味不明なことばっかだけど とりあえず、俺たち3人は、不思議な野良猫に、 懐かれちまった、みたいだ。。 この連載は殆ど名前変換ないですすみません |