あなたのそばに 「森田」 花本先生の大告白の直後 穏やかな表情で河原に寝そべるあなたに声をかけた 「…じゃん」 「フラれた?」 「…お前はもう…何でもお見通しかよ」 「ふふふ、森田のことで分かんないことなんてあたしにはないもんね。何年の付き合いだと思ってんの」 だって 「フラれたよ」 ずっと、あなたを見つめていたから 「…知ってたよ」 あなたが恋に落ちたのも 「何が」 あなたが苦しんでいたのも 「ぜんぶ、知ってたよ」 私にできることは何もなくて、私はただ見ていただけで 「…」 「ごめんね、何もしてあげられること、なくって」 謝りたかったわけじゃないんだ ただ、謝って 自分を納得させたかった。 森田は助けなど求めていなかった。それでも助けてあげたかったのに、何もしてあげられなかった自分を。 「知ってたのに」 「」 「知ってたのに…森田が苦しんでること」 きっと、森田が道連れにしようとした女の子が私だったのなら 私は 迷わずに、自ら引きずり込まれたのだろう けれど、違う。 森田が選んだ女の子は 私じゃない その女の子は…私なんかよりも もっと強くて、そして 弱い 「…は 俺にとってすっげー大事な存在だ」 「…ウソ」 「ほんとだ」 「ウソだよ」 「ほんとだってば」 「……なら」 それが本当なら 「1つだけ、あたしのお願い聞いて?」 それだけでいいから お願いです 「なんだ?」 「…泣いて」 「は?」 「泣いて。一度だけでいいから。胸にあるもの…今まで積み重ねてきたもの、みんな 捨てて?」 苦しみも消えて、あの子ともある種の終わりを迎えた それに森田は納得しているし、多分、今悲しみは何も持ち合わせていないだろう でも 「今の悲しみじゃない。今までの悲しみを…全部、あたしにぶちまけてよ」 せめて、今くらいは 「あたしを、あなたの役に立たせて」 お願いします それだけでいいから。 あなたを想ってしまった私の最後の願い どうか、聞き届けてください 「…お前、ばかじゃねーの」 「んな」 「お前はずっと俺の役に立ってる。俺とこうして話してくれるだけで、俺は救われてるんだ」 「うそ」 「うそじゃねぇ。それに、俺に泣けって言っといて」 「何でお前が泣いてんだよ」 刹那私を包んだ温もりに 私の涙腺はもっともっと緩くなって 涙がポタポタと、地面に落ちた 「ごめんね森田 ごめん」 「…」 「ごめんね」 すきになって、ごめんね 「…馬鹿野郎」 私のものではない雫が ひとつ、地面にポタリと落ちた どうか涙とともに流してください あの頃の苦しみと悲しみと…そして挫折を そしてもう一度大きく踏み出してください あの子のためにも、おおきく、おおきく…… 「ありがとう、」 それはこっちのセリフだよ ありがとう、森田。 あなたは優しすぎるんです あなたのことを好きな私を…それを知りながらずっと傍においていてくれて…ありがとう 「」 今だけは 私だけをあなたの傍にいさせてください。 「ごめん な」 好きだったよ 森田 ありがとう ごめんね さようなら。 END |