キィイイイイ…ン


一点の曇りもない青い空に、一筋の白が横切る。
残された雲の余韻が、まるで今の俺の心の中を表しているようで、思わず 目を背けた。
脳裏を過ぎるのは昨日の記憶。
思い出されるのは、涙を流す、俺と………先輩達。


勝ちたかった。


自分勝手で、俺のことをオモチャみたいに扱う、酷い先輩達だけど

最高の先輩だった。

今なら素直に認めることが出来る。俺は、あの人たちが大好きだった。
越えられない高みだった。だからこそ、追いかけることができた。いつか追い抜けると思ってた。


先輩と、先輩と後輩、マネージャーとレギュラー、そして恋人として過ごした時間

ブン太先輩や仁王先輩、ジャッカル(先輩)と一緒に食べた昼食

柳生先輩や柳先輩に教えてもらった英語の勉強

真田副部長に幾度も殴られた頬、何度も聞かされたお説教

そして、時には優しく時には厳しく 見守り、引っ張り続けてくれた幸村部長


毎日が新鮮で、毎日が楽しかった。
喧嘩だってした。でも、次の日には一緒に馬鹿笑いできる、この関係が その日々が大好きだった。
テニスを始めるとみんなライバルで。みんな、すげー選手だった。

――――― 昨日の全国大会。みんな、すっげえいい試合してた。
まず真田副部長が、あの手塚サンに勝って、立海に流れを持ってきてくれて。
そんで次に俺と柳先輩が、俺が向こうの乾サンを再起不能にさせる、というカタチでだけど棄権勝ちして、
次は仁王先輩が、不二サンに負けて、次のブン太先輩とジャッカル(先輩)も大石サンと菊丸サンに負けて。

思えば、関東大会の時と同じ流れだったな。
先に2連勝して、2連敗して…


そして最後は、幸村部長に全てを託した。


絶対に勝つと思った。だって、部長だぜ?
―――でも、負けた。俺と、真田副部長にも勝った、越前リョーマの方が…テニスを楽しむ気持ちが強かったから。

思えば、俺たちは“勝利”に拘りすぎていたんだ。
王者立海の、無敗という掟。それは逆に、俺たちを縛り付けていた。
終わってから気づいても遅いんだけど、もっとテニスを心から楽しめばよかったなあと、今なら思う。


でも、部長は本当にいい試合をしてた。
ちょっと、見てるこっちが、泣きそうになるくらい。


俺はまた、来年もある。今度はきっと、俺が幸村部長にの立場にいるんだろう。
俺はあの人のような、素晴らしい部長になれるだろうか?
みんなを引っ張っていけるだろうか?あれだけの、テニスだけじゃない、“強さ”を 手に入れられるだろうか。

来年の全国大会では、絶対にまた 優勝を獲り返す。
そしてトロフィーを、高等部にいる先輩たちに 届けるんだ。俺、やりましたよ!って……


…でも


「…今のメンバーで」


もう、二度とは戻らない夏。



「 優勝、したかったな… 」



あたりを見渡せば、そこはもう 秋だった。





「ふふっ、バーカ。辛気臭い顔してんじゃないわよ」
「っ!?、せんぱ」

声のしたほうを見ると、先輩がこちらを見て笑っていた。

「赤也らしくないわね。そんな沈んだ顔してるなんてさ」
「…俺、アンタに優勝をプレゼントしたかった。…先輩と、一緒に   優勝、したかった。」

いつもなら恥ずかしくて言えない素直な気持ちも、今はすんなりと言える事が出来た
先輩はそんな俺に少し目を見開いてから、ふっと優しい笑みを零す

「ありがと。…でもね、そんな引き摺ってちゃ、来年優勝できなくなるわよ?」
「…なんで、」
「ん?」

分からなかった。苛々した。今この人が、笑顔でいることに。

「なんで、笑ってんスか…!?もう、終わったんっスよ!?」
「…うん、終わったね」
「なんで…っ」
「終わったから、だよ」
「っえ…」

なんで、としか言えない俺に、返ってきた言葉は、至極簡単で 優しいものだった


「終わったことをとやかく言ってもね、プラスにはなんないんだよ。それに…昨日、散々泣いて、悔しがったしね。
 それにね、確かに中学の夏は終わっちゃったし、みんなで築き上げた王者の連勝も終わっちゃったけど、
 私たちにはまだ高校と言う舞台があるし、アンタには、もう一度チャンスがある。
 私たち3年生は、アンタが来年こそは優勝してるって、信じてるし、応援してるよ。

 だから私たちは笑って…次に向けて、歩き出すことが出来る。」


そう言って先輩は、また 優しい笑みを浮かべた。
そしていつの間にかその背後にいた先輩たちも、同じように笑っている。


「辛気臭い顔してんじゃねえっつの。お前らしくねえだろぃ!」

「いつものお前さんはどこへ行ったんじゃ?赤也」

「折角NO.1になれるんだし、もうちょっと喜べよ」

「まあ、貴方にもそんな後輩らしい可愛いところがありまして私は少し嬉しいですけれど」

「フ、所詮は中学2年生ということか」

「うむ。俺たちもまだ中学3年だ。だからこそ、未来を見出すことが出来る」

「フフ…俺たちのこと、そんなに思ってくれてありがとう、赤也。…立海を、頼んだよ?」


口々に言われた、俺を励ます、そして 別れを含めた  激励の言葉に、
昨日流しきったはずの涙が、自然と目に溜まり始める
それを隠すように、俺は思いきり頭を下げた。
俺に立海中テニス部を託してくれた幸村部長への返事と、そして 全ての先輩へのお礼を言うために。


「 はい!!――― ありがとう ございましたっ!!!! 」


反動で溢れた涙。ポタ、ポタと地面に跡をつける
ぐし、と手の甲で拭ったけど、それは止まることがなく。
俺は頭を上げることもできず、ただずっと 先輩達に頭を下げていた。
しばらくシン、とするも 少しずつ足音が遠ざかっていく。
全ての足音が聞こえなくなり、全員いなくなったのかと思い頭を上げようとすると、刹那 俺の全身を何かが包み込んだ。

否、何かではない。

この匂いを、ぬくもりを 俺は知ってる。いつもそばに、感じていた―――…


、先輩…?」
「大好きだよ、赤也。…部活を引退しても、校舎が変わっても……それは 変わらないから。覚えててね」
「…はい。俺もっス、先輩」

ぎゅ、と、俺より少しだけ小さい体を抱き締め返した。






青 春

ヴェイパートゥレイル






先輩の後ろに見える、透き通るくらいの青空に浮かぶ飛行機雲を、今度は真っ直ぐと  見つめることが出来た―――――――






[ Love Mistake. ] 紫陽 華恋

テニプリ完結記念ということで、フリー小説にします。期間はありません。
背景以外のソースをそのままお持ち帰りくださいませ(この文は消してくださって構いません)