「これはこれは綺麗なお嬢さん。いったいどちらへお向かいで?」
「ええ、ちょっと図書館へ………じゃなくて、何の用?仁王雅治」


はノリツッコミをしてから、うざったそうに振り向いた
その瞳は俺を痛く睨んでいる。


「おうおうそう睨みなさんな。別に待ち伏せてたわけじゃなかとよ。偶然偶然。愛の力v」
「ほざいてないでこの腕を放してくれませんか?図書館行かなきゃなんないっつってんでしょ」
「ほな俺も行くけぇ」
「何でそうなるの…」
が好きじゃからに決まっとう」


そう言えば、は 「どこまでが本当でどこからが嘘だか分かんないなー」 と言ってから歩き出した


…全部、本当だ。

に会いたいなぁと思いながらウロついていたら偶然に出会ったのも、
俺が…のことを好きなのも。


今まで本気で人を好きになったことなんてなかった俺は、どうしたらいいか分からなくて 悩むばかりだった
けれどあるときそれもプッツリと切れ、とりあえず攻めるしかないと思い、こうして猛アタック中だ。
…でも、手応えは全然なし。

あれだけ女に不自由してなかった俺が、たった一人の女にこれだけ苦労していると知ったら…


「( 姉貴は大笑いしそうじゃの )」


関係ない姉のことはさておき、たどり着いたのは図書館。
どうやら、図書館へ行くというのは本当だったらしい

そういえば、は見た目によらず真面目だったなと思い出す。
そう、俺はそこに惹かれたのだ


見た目こそはどっかのセレブで綺麗なお嬢様。
けれど内面はしっかりしていて、真面目で、そして庶民的。( というか、本当はセレブでもなんでもない )
そして結構気が強い。

中二の時に同じクラスになって、偶然にも隣の席になり、話す内に好きになった
中三で再び同じクラスになれたときは嬉しくて関係ない丸井の頭を撫でまくったくらいだ(謎)

さっきも言った通り、はじめはどうしていいか分からなくて、と再び話すことさえできなかった
けど悩むこと半年。悩んでるだけじゃとの距離が広がっていくだけだと気づいた俺は、逆に猛アタックしだしたのだ

告白はあいさつと同じようなもの。
俺にとっちゃぁすべて本気なのだけれど、それが逆に仇となったのか、
はじめは戸惑っていたも最近は冗談だと思っているのか、軽くあしらわれてしまうようになった


「で、図書館へは何しにきたん?」
「勉強」
「…ああ、来週末中間考査じゃけぇの」
「そういうこと。アンタはしなくていいの?」
「俺はせんでも平均は取れる」
「…いいね、そういう人は。」


はそう吐き捨てると空いてる席に腰掛け、さっそく勉強道具を取り出した
俺はの向かい側に座り、勉強するをただじっと見つめる


( あ、睫毛はそない長くない。…俺のが長いくらいか )

( 伏せた目って何でこない色っぽいんじゃろか… )

( メイクもあんましてへんの。それでこの綺麗さじゃもんなぁ…さすがやの )

( あ、首にかけちょるネックレス、センスえぇの…めちゃ俺好みじゃ )


よく見ると、両耳にひとつずつだけのピアスもかなり俺好みで。
左手の小指につけられたリングも。


( …気が合うんじゃの… )


ますます、好きになったかもしれない。


「…あのさ、あんまり見ないでくれない?すっごい気になるんですけど」
「ああ、すまんの。…ああ、数学しちょるん?つか、苦手?」
「よく分かったね」
「俺が教えたろうか?」
「へ?」
「俺、数学得意じゃけぇ」
「…ほんと?」
「ほんまほんま。」


そう言ってニッて笑ってやると、は本当に嬉しそうに 「ありがとう」 と笑った

その笑顔があまりに綺麗だったから、不覚にも顔が熱くなる
それを隠すように、俺は慌てて口を開いた


「お、前 俺に惚れちょるじゃろ?アクセも、俺好みのんばっかつけて…」

「そうだよ?」

「あーそうじゃろ、どうせそーじゃろうと思・・・・・・・・・・・・・・は!?


かなり苦しい言い訳(?)だったけど、俺とアクセの好みが似ているんだと、遠まわしに言ったつもりだった

けれど、帰ってきた言葉は、あまりに今の俺には刺激的で、信じられない言葉だった


「お、ま…何言っ…」
「もうとっくに惚れてるよ。元女ったらしで、いい加減で、人で遊ぶの大好きなとんでもない詐欺師だけど」
「…?」
「あたしにはちゃんと向き合ってくれるし、本当は優しいし、女のことだって真面目になったこと、ちゃんと知ってるから」


そう言って俺を見たの瞳は、睨んでなんかなくて 優しくて、愛しさにあふれていた。

…なんだ、俺たちはもうとっくに、思い合っていたんだ


「…好いとうよ 
「ん、あたしも」
「つ、付き合ってください」
「ん、いいよ」


主導権を完全に握られてる気もするけど、そんなのはまぁいいだろう

とりあえず、今はとてつもなく幸せなのだから。





「( 女ったらしで、いい加減で、人で遊ぶの大好きなとんでもない詐欺師の人の告白なんて嘘なんだって思って
 ほんとはずっと言わないつもりだったけど…ほんとにあたしのこと真剣なんだって知っちゃったからなぁ… )

 負けたよ、仁王」


まぁ、ほんとは中一の時からアンタのこと好きだったんだけどね。