「あ。」
「っあ、すみませ……、…忍足」


今日は、部活はオフだった。
岳人の宿題を少しだけ見た後で 1人、帰路に着くため下駄箱へ
靴を履き替え昇降口から出ようとした瞬間―――俯き走ってきた少女とぶつかった。
泣きはらした目で俺を見上げ謝った少女は、とても見慣れた人物で。


やん。どないした…?」

まぁ、見当はついていたけど。( いや、むしろ確信だ )

「…ふられちゃった」
「ああ…アイツか」
「ふっ…分かってたくせに」


悪戯っぽく笑うの瞳に映っていたのは自嘲。
思わず伸ばしそうになった腕を慌てて引っ込め、苦笑を浮かべた


「ごめんね。色々相談のってもらったり、協力してもらったりしたのに」
「いや、」
「愚痴、聞いてくれる?」


そう言って苦笑したを拒絶する理由など持ち合わせておらず、
笑むことでそれを了承し、教室まで荷物を取りに行ったを待つため壁に寄りかかった

―――― カツ、ン

ちょうどそのとき、俺1人しかいないはずの昇降口に のものではない足音が響いた


「忍足」
「…跡部」

現れたのは跡部だった
ある意味、今いちばん会いたくない人物だったのに。

「何やってんだ、こんなとこで?」
「…人、待ってんねん」
「ふーん…?」


早く行け。

その思いだけが体中を駆け巡るものの、そんなの跡部に届くはずも無く。
さらに跡部は俺の正面の壁に寄りかかり、話し始めた( ちょ、帰れや… )


「お前とよく一緒にいた女…。、だったか?
 アイツ、お前の女じゃなかったのかよ」
「!?は、」
「アイツ、俺様に告ってきやがったんだが」


何と言った、目の前の男は。

( 俺とが…付き合ってる、やて? )


「まぁ当然の如くフッといてやったぜ。安心するんだな。
 二股かけるような女は俺も面倒くさ――― 「っのアホ部!!」 アーン!?


ふつふつと沸いてきた怒りを抑えきれずに叫んだ
間髪入れずに怒りのこもった跡部の口癖とも言える怒声が飛んできたがそんなものは関係ない。


「アイツと俺は何もあらへん!お前の相談乗っとっただけや
 そんな理由でフッたんやったらもう一回――――」
「ッハ!そんなのはどうでもいいんだよ 「何やて!?」
 …どちらにしろ、お前が安心すべき立場なのは変わらねーだろうが」
「っは…」


分かっていた。
この先の言葉なんて。
でも、言って欲しくなかった。
この男に だけは


「お前、あの女のことが好きなんだろ?」


が好意を寄せている 跡部にだけは――――…。


隠してきたのに。
ずっと。誰にも悟らせないよう、振舞ってきたのに。

目の前にいる男の眼力にだけは 敵わなかった。


「忍足ー。おまたせ…………、跡、部…」
「っ!」

聞かれた?
いや、が驚いているのは跡部の存在にだけだ

「よぉ。…テメェももう俺の顔なんて見たかねーだろ。俺はこの辺で失礼するぜ」
「…」


跡部が去って、辺りがシーンと静かになる
確かに 今は冬だけれど―――― こんなに、寒かったか  ここは。


「…忍足、帰ろ?」
「…、ああ」


に促され、足がもつれそうになりながらも歩き出す
空はもう、暗くなり始めていた


「びっくりしたよ。跡部と何話してたの?」

やはり、聞かれていない。

( 良かった )
「別に…大したことやあらへんよ」


はぁ、と息を吐けば、それは白い水蒸気となり 空へのぼっていく
…もう、冬だ。( そんなこと分かっているけれど )


「…結構さ、痛かったんだー
 だってさ、告ってからの第一声が 『誰だテメェ』 だよ?
 委員総会とかでよく顔合わせてたどころか、2人だけで一緒に作業したことだって何度もあったのに。
 フラれるのは分かってたけど、これはないだろって思ったよ
 ――――でも一番イタイのは、

          それでも跡部が好きな 自分 かな 」


思い知る。
恋とは どうにもならない感情だと。
傷付いても 絶望しても 消えないものは、消えない。


「馬鹿だよね…私も」


のその何気ない言葉に、俺はピタッと足を止めた
ああ、そうか。
意味なんてないんだ、俺の、なけなしの良心なんて。


「…さっきの会話、聞いてたんやな」
「うん」
「知っとった?」
「うん」
「そうか」


何より恐れていた筈なのに。
いざとなったらこんなに冷静なのは何故。

そんな問いの答えなんてどうでもよくて、俺はを抱き締めた


「好きや、
「私は、跡部が好きだよ」
「それでも、好きなんや」
「っふ………私も、…忍足も 馬鹿だよ」


叶わないと分かっているのに この思いは消えることなく
消したくても消せない 愚かな感情


互いに求めるように交わしたキスは、

これ以上ないほど冷たく


愛なんて可愛らしいモノのカケラさえ感じられない、涙の味の キスだった




な ん だ こ れ !
何ていうか、忍足夢なんて久しぶりすぎてワケ分からんとです。そして跡部出張ってる。