一目惚れだとか なんか格好悪いし…そんなこと、認めたくなかった。

でも、それは


本当に 一瞬  だった






「ふぁ……」


英語の授業はつまらない。
be動詞がどうだの、一般動詞がどうだの、助動詞がどうだの…文法がどうだの。
ハッキリ言うよ。全っ然意味無い。
英会話ができたら英語はできるけど、英語ができても英会話はできない。
あんな授業、つまらなくて仕方が無かった

…ので、サボリ決定。

数週間前に見つけたお気に入りの場所。
見つからないし、陽も適度にあたるし、睡眠に最適な場所だ


「( 次の授業は数学…だっけ。めんどくさ… )」


最後の、校舎の角を曲がる
ここを曲がればそこは、誰にも邪魔されることのない――――


「…え?」


そこにあったのは 目を疑うような光景。
見慣れない少女が、俺のお気に入りの木にもたれかかり、目を瞑り 歌を歌っている
歌詞は、英語だった。


―――― 動けない。


ただ 単純に  その歌に聞き入った。
響く、ソプラノの声。
そんなに特別上手いとかじゃなく、平均的だと思うのに

俺は目を逸らすことさえもできず。


「〜♪
 ――――……ありがとう」

「っは?」


歌い終わり、目を開いた瞬間お礼の言葉を口にしたその人に、俺は首を傾げるしか出来なかった

( わけ、わかんない )


「だって…聞いててくれたから」
「…俺が来たこと 知ってたの?」
「なんとなく」


そう言って微笑んだその人に、

俺は柄にも無く 綺麗 と、思ってしまった


「…アンタ、誰」
「え?」
「アンタの名前は?」

自分からこんなに興味を示したのは テニス以外では、初めてだった

「あ、うん。  です」
「見たことない。何年?」
「3年だよ。今日転入したの」
「( そういえば、堀尾が3年に転入生がきたとかなんとか… )…転入初日から サボリ?」
「あはは」
「(笑って誤魔化す…) やるじゃん」


先輩は微笑んだ。その笑みに 感情は、見えなくて


「…ね、先輩」

聴きたく、なった

「うん?」
「もっかい、歌ってよ」

歌でなら、隠された感情が見つけられる気がしたから。

「…うん!」


先輩は嬉しそうに微笑んで、すぅと息を吸って、歌い始めた










それは、静かで優しい曲だった

それもまた英語の歌詞だったけれど、俺が分からないはずも無く。



失恋ソング だった



別に失恋したわけじゃないのに、こっちまで悲しくなってくるくらいの。

――― 先輩が 切なくなるほどに歌詞に感情を込めるから。


まさかと思い、先輩を見た。

先輩は、泣いていた。

そのとき俺は、分かったんだ


「( 失恋したて、ってわけ? )」


ここまで感情を込めることができるのは、そのせいだろう


「…」


殆ど 無意識に近かった。それは寧ろ、攫われるかのように。

歌が終わると同時に 先輩の頬に手を寄せ、驚く先輩に気づかないふりをして、涙を拭って


触れるだけの、キスを。


「っ………」


あまりの突然の出来事に対応し切れなかったのか、先輩はただ顔を赤く染め、俺を見つめた

そこでやっと俺は我に返って、顔に熱が集まってきた


「あ………ごめん」

「…」


先輩は怒るでもなんでもなく、

再び 涙を流した


先輩。……


そっと、それを拭う


「…」

「好きになった。アンタのこと」

「…きみ、名前は?」


紡がれた言葉はあまりに淡々としていて。でもその裏にあったのは、懇願とも言える想い


「リョーマ。…越前 リョーマ」


刹那泣き崩れたに俺はどうすることもできず、



ただ 抱き締めた





By [Love Mistake.] 紫陽 華恋 (200000HIT御礼企画作品)