きみがすきです、そばにいて



「…あ、ねぇ跡部くん。、風邪引いたんだって。今あの子のお母さんからメールきた」
「だから今日休んでるのか…」

ある平日のこと。
氷帝テニス部は今日も勿論朝練があり、部員とマネージャーは朝早くからテニスコートにて練習とサポートを行っていた
けれど2人いるうちの1人のマネージャー… が時間になってもこなかったのだ。
ただの寝坊かと思っていた面々だが、どうやら違ったらしい。

「うーん…、あたし今日帰りにお見舞い行くけど、跡部くんどうする?」
「…んで俺様に聞くんだ?」

じろり、と跡部は、の母への返信を打っているのだろうか、携帯を弄ったまま話すを一瞥した
は跡部の方を向くとにっこり微笑み、また携帯に視線を戻してから、口を開いた

「彼氏じゃん」
「…んで知ってんだ…?」
「見てたら分かるよ…。隠してたつもりなの?」
「ああ…一応、避けられる被害は避けといた方がいいだろ」
「まぁ安心しなよ、ファン達はきっとまだ気づいてないから」

尚も携帯を弄りながら話すに跡部はヒクヒクと口角を引きつらせながらも、考えはまったく違うものへ。


「( が風邪、か…珍しいな… )」

そう、珍しいのだ。彼女は滅多に風邪を引かなかった。
それはよくいう、「○○は風邪を引かない」の○○なワケではなく、自己管理がしっかりしていたからだ。
帰宅後の手洗いうがいは勿論、汗をかいたらすぐに拭くし、食事だって、睡眠だって。
それなのに風邪を引くとは。どこかで気を抜いて、タチの悪いウイルスでも呼び込んでしまったのかもしれない。


「…行く」
「え?」
「見舞いだよ見舞い。俺様も行ってやる」
「あ、そう?良かったぁ、も喜ぶよ、あの子寂しがりだしね」

お土産、何持って行こうかなぁ、なんてがブツブツ言っている中、跡部の考えは疑問から、

「( …大丈夫か、アイツ… )」

心配へ。







「じゃあ、部活終わったら校門ね」
「ああ。今日は早めに切り上げる。お前も一人じゃ辛いだろ」
「うん、そうだね。じゃ、また部活でね」
「ああ」

朝練後、そう言葉を交わして、玄関で跡部とは別れた。クラスが違う上、校舎も違うからだ

「( 熱はあるのか…?症状は?咳?鼻水?メールで聞こうにも病人にそれはな…でも、 )」

そんなことばっかり考えている自分に気づいて、跡部はふと自嘲した

「…馬鹿だな、俺」

1人の女のために。ただ、風邪を引いただけなのに。
でも、

「( こういうのも、最近はアリなんじゃねぇかって思うんだよ、な… )」













ピンポー…ン


「…はい」
「あ、おばさん。です、こんにちは。のお見舞いにきたんですけど…あ、これお土産です」

が微笑んでの母親にフルーツセットを渡す
の母親はそれを受け取ると、申し訳なさそうに、でも嬉しそうに微笑んだ

「ああ、有難うね。…跡部くんも!お見舞いに来てくれたの?」
「はい。具合はどうですか?」
「解熱剤飲んで、熱は下がったみたいだけど、まだ少し辛そうね」
「そうですか…」
「でもねぇ、あの子、どうしてか全然眠らないのよ。眠ればよくなるって言うのに。…とにかく、入って?」
「じゃあえっと、お邪魔します」
「ええ」

家に上がり、跡部とはそのままの部屋へ。
コンコン、とノックをし、「…はい…」と弱弱しい声が聞こえたところで、は部屋の中へ入った。それに続き跡部も入る

「お見舞いに来たよー」
「あ、ちゃんありが…、って、ぇえ?景……跡部っ?」
「…いつも通りに呼んでいいぜ。コイツ気づいてるらしい」
「え、あ、そう、なの?分かった…」

少しだけ驚いたように、は頷いた
2人がきたために起き上がろうとするを、跡部が制する

「寝てろ」
「でも…」
「いいから寝てろ」
「…ハイ」

「跡部くーん?さーん?どっちでもいいんだけど、少し降りてきてくれないかしらー?」

丁度、下の階からの母親の声が聞こえ、跡部はドアノブに手をかけた

「俺が行ってきてやるから、のこと、頼んだぜ」
「うん、分か――― 「…や、」 …?」
「嫌…景吾、傍に、いて…」
が傍にいるから」
「やだ…景吾、が…」

普段は甘えたりわがままを言ったりしないなので、跡部とは少し戸惑う
けれど、風邪のときなどは、人恋しくなるとよく言う。そういうものかと思い、跡部はドアノブから手を離し、の傍へ。

「分かった。いてやるよ。…、宜しくな」
「うん、いってきます」

が部屋から立ち去ったところで、跡部はの顔に手を伸ばし、頬を撫ぜた

「どうしたんだ…お前」
「…寂し、かったの。今日、ずっと 景吾に 会えなくて」
「……悪かったな。サボってすぐ来りゃ良かった」
「そういうことが言いたいんじゃないよ。サボりは駄目。…会いにきてくれて、ありが、と…」
「…。……」

「跡部くん、、おばさんがフルーツ……、…寝ちゃったの?」
「ああ。…帰るか」
「え?あ、うん」

部屋を出る寸前に、跡部はの顔を見た

「…ゆっくり休めよ」

そう小さく呟いて、部屋を出た。





「じゃあ、また明日ね!」
「ああ」


きっと、彼女がずっと眠らなかった…、いや、眠れなかったのは、寂しかったからだろう

だから、俺と会った直後に、眠りについたんだ


「( 俺に会えなくて寂しいなら…早く風邪、治せよ )」


早くの具合がよくなるようにと、空を見上げ、小さく想った。





By [Love Mistake.] 紫陽 華恋 (200000HIT御礼企画作品)