ねぇかみさま。もし本当にいるのなら 「おはよう恭弥」 「…おはよう。今日は珍しく遅刻ギリギリじゃない。どうしたの」 「ちょ、睨まないで下さい。ちょっと寝不足だったの」 「そういえば、昨日も帰り遅かったからね」 「え、なんで」 「家隣なんだから、それくらい気づくよ」 ふっと微笑む恭弥は綺麗だ。格好良いと思う ただドキッとしたりときめいたりしないのは、これを長年隣で見続けてきた所為だろうか。 私と恭弥は おさななじみ そう、それさえも私にとっての罰。 昼食時 「」 「ん?なに恭、弥」 「来て」 「そんなこと言う前に引っ張ってるじゃんあなた!ちょっと!?」 顔を真っ青にして何もいえない友達を残し、私は恭弥に引きずられるがまま多分、応接室へ。 ちなみに昼食であるコロッケパンを掴んだまま。 たどり着いた先はやはり応接室で、草壁さんがドアを開け、私は恭弥に引きずられたまま 何度来たか知れない豪華な部屋の中へ。 ここへ来る理由はひとつしかない。私はきっと仕事を手伝わされるんだろう 言葉にしなくても分かるこの関係に 喜びたいのに喜ぶことなんてできなかった 「はい。これまとめてくれる?」 「…拒否権なんてないんでしょうに」 「当たり前でしょ?」 「…(うわぁ嫌味ったらしいまでに綺麗な微笑み!普通の女生徒が見たら鼻血モンだねこりゃ)」 溜息を吐いて、机の上に積まれた書類を手繰り寄せた (…いつもより、キッチリかっちりやってあげるよ) きっと、これが“最後”になるだろうから 「あ〜…終わったぁ…」 「お疲れ、」 恭弥は私の前に珈琲を置くと、向かい側に腰掛けた 私に出してくれたものと同じマグカップで珈琲を啜っている 伏せた瞳に映える睫毛さえ 美しい ( きょうや ) ああ、なんて美しい名前。 すべてにおいて美しく穢れなき君に 私が出会ってしまったのはきっとかみさまの私への罰 “お前とは違うのだ”と 私は穢れているのだと、思い知らせるための。 「…今日は用事があるんだ。もう帰るね」 「…、」 「っ?なに、恭弥」 駄目だよ、私に触れたりしちゃ 綺麗なあなたが 穢れてしまう。 それでも、あなたのことが誰よりも大切な愚かな私に この手を払える筈もなかったのだ 「…君、今日おかしい」 「え?」 「何かあったの」 「…っ……別に、何も…」 ああ大切人。 どうか 気づかないで 「っ………そう」 一瞬だけ 私の腕を掴んでいた手に力が込められたかと思うと、 名残惜しそうな風が恭弥の腕をさらって、私の腕は開放された 恭弥を見ると、切なそうな表情 ( 駄目 ) 駄目なんだよ。おねがい、そんなカオしないで ( 恭弥… ) 「っ…?」 「…」 私は一度だけ恭弥を抱き締めると、 小さな微笑みだけを残し、応接室を出た 「 さよなら、恭弥 」 さようなら 大切な人。 その日の夜 ―――カタ、ン… 「!…誰かいるの」 突然聞こえた物音に、僕は目を細めた 暗闇。今、この部屋に電気はついていない ( ―――! ) 人の気配がした 「姿を現したらどうなの?」 呼びかけても返事は来なかった 僕は座っていたソファから立ち上がる ここはまだ月明かりによって明るく、あちらからは僕の姿も見えているだろう こちらだけ見えないのは不利 …でも、これだけの条件に僕が負ける筈も無い 「 …無断でこの部屋に立ち入ったことは重罪だよ。…―――― 咬み殺す 」 トンファーを構え、相手の出方を待った ...数秒。 数本のナイフが、僕を目掛けて飛んできた キィン キィインッ それを打ち落とすと、ナイフが飛んできた暗闇へ飛び込む そこに投げた人物がいることは間違いないからだ 「ッ…!」 それを分かっていたらしい。 そいつは僕が飛び込むと同時にナイフで切りつけてきた それをイナすと、僕はそいつの腕を引っ張り、床へ叩き込む( ―――っ! ) そのとき感じた違和感を、僕は理解していなかった 雲が 晴れていく どうやらいつもより部屋内に暗闇が多かったのは 雲が月を隠していたからだったらしく。 僕と侵入者を 月明かりが 照らした 「――――ッ…」 言葉に ならなかった 僕が押さえつけていたのは 戦闘用の服を身に付けている……紛れも無い、幼馴染だったからだ ( ああ、そうか。腕を掴んだときの違和感はこれだったんだ。僕は知っていたんだ、この腕を ) 「っ…」 「…」 「今日様子がおかしかったのは…分かってたけど……まさか、こんなことするなんてね…」 言葉では冷静を装ったけれど、内心、心臓は暴れていた 夢にも見なかったからだ こんな、こと 「………どう、して」 無意識に口から出た言葉は 本心だった 「……恭弥」 は僕の下で小さく笑った まるで、今日、僕を抱き締めたあとに見せた微笑みのように。 「ごめんね 恭弥」 は簡単に僕の拘束から抜け出すと、床に放り出されたナイフを手に取った 僕は条件反射でトンファーを構える 「私ね、ある組織の一員なの 今回の指令は 恭弥の抹殺だった」 「…!」 「そんなことしたくなかった。でも、あの方の命令だったから…」 あの方、なんて、僕には分かるはずも無い でもの愛おしそうな表情を見て、その 立場は分かった 「でも決めてたの。一度のチャンスで恭弥を始末できなかったら」 『次のターゲットが決まった』 『…はい』 『ターゲットの名は、お前もよく知っているだろう』 『…?』 『雲雀 恭弥だ』 は、僕を見つめた …その表情に、僕は何も考えずに 駆け出した 「死ぬって 決めてたんだ」 『…雲雀 恭弥 ですか』 を突き刺さんとするナイフを払い落とし、僕は、を抱き締めた 「っ恭弥…!?」 「…なに、してるの」 「死ぬんだよ…私は」 「何で死ぬの」 「私は…っ」 私は 穢れてるから あなたの傍にいちゃ いけないんだよ 涙を流しながらそう言うの言葉を理解できはしなかったけど、が僕の隣からいなくなることだけは許せなかった 「僕は、許さないよ。そんなこと」 「!」 「でも、止めない。一生許さないけどね それでもいいならこの腕を解いてそのナイフで自分を突き刺せば良い。僕を突き刺してもいいんだよ?」 もっとも、できないだろうけどね 「っ…ぅ…」 は、僕の腕の中で泣き崩れた。 僕は抱き締めるなんて、ましてや慰めるなんてことをするはずもなく、ただそれを見つめていた。 が僕に向けた表情は 愛しさに勝る大切さ だった。 きっと、が誰より愛しているのは“あの方”なのだろう。 けれども誰より大切なのは僕。 だから、は僕を拒絶するわけないと確信をもった。 案の定、抱き締められた腕さえ、振りほどくことも出来なかった が“あの方”のモノなら、奪ってやる。 “あの方”のモノのまま、を死なせたりなんてしない 「」 さぁ、僕のところへおいで 「恭…弥っ…」 穢れも何も無い僕たちだけのユートピアへ 2人で堕ちてゆこう
こ 「好きだよ」 紡いだ言葉は 昔から胸の奥に秘めてきた、想い だった By [Love Mistake.] 紫陽 華恋 (200000HIT御礼企画作品) |