慣れていなかったんだ。ただ、それだけ。 未知の世界へ足を踏み入れるには、私の持つ過去はあまりに重い足枷だった。 目の前に置かれたティーカップを手に取り 少しだけ、口をつけた 口の中に広がるのは、愛に溢れた愛しい味。 「どう?美味しい?」 「…美味しい」 「そう、よかった。…まあ当然だろうけど。君の好みを事前に調べておいたからね」 「…なんで、そこまで」 「…何度言えば分かるの。――――― が好きだから、だよ」 ふ、と 普段は滅多に見せない優しい笑顔を浮かべ、あなたは言った。 私を好きだと。私のことが好きだから、私に尽くしているのだと。 「ああ…ごめんね、仕事の時間だ、思う存分ゆっくりしていってくれていいからね。…草壁、行くよ」 「はい」 並盛中学校風紀委員長にして不良の頂点に立つ、並盛内での最強で最悪の男。 雲雀 恭弥。 誰からも恐れられ、彼の前では誰もが個人行動をする、恐ろしき人物。 けれど影では、その端整な顔立ちやスラリと伸びた手足、強さ、成績、技量…すべてにおいて秀でている彼は、 女子生徒の中では高嶺の花として密かな想いを寄せられていることも多い そんな彼が、ある日突然私を呼び出し、私に告白をした。 私といえば、特に目立ったものは何も無く、平々凡々という言葉が何よりも似合うような、そこらへんにいるような女だ 普通の家庭に生まれ、普通な人生を送ってきた。なのに、どうしてこうなったのか。 全っ然 わからない。 ただでさえそれで、彼に好かれるなんて信じられないし、恐縮というか、なんというか。 恐れ多いことこと上ないのに。 彼の想いを受け入れない何よりも理由は――― そんなところにあるんじゃない。 平々凡々な暮らしを送ってきた。=普通に恋だってしてきた。 中学も、入学してもう3年目になる ( そう、私中3なの。一応雲雀くんより年上なの ) 中2…去年の初めから、好きになった人がいて。 すごく すごく すごく、好きで。 夏頃に、告白した。フラれると思ってた。でも返ってきた答えはOKで、私たちは付き合い始めた。 その彼は、すぐに私に何かを欲しがった。 初めはお弁当だった。毎日朝早くに起きて作った。彼に喜んで欲しかったから。 でも、どんどんそれはエスカレートしていって、果てにはデート代は全て払わされ、さらにお金までもぎとられて。 挙句、私の処女をあっさり奪った後は「別れよう」。 以来、恋愛は私にとってタブー。 だって、まだ半年も経ってないもの。あの人にヤリ捨てされてから。 だいぶ、辛かった。今普通に過ごしているのは、フラれた当初から考えれば凄いことだ。 そう、だから慣れていなかったんだ。 “ 愛される ” ということに。 どれだけ愛しても、それは返ってくることは無かったから。 愛なんて、返ってくるもんじゃないって、もらえるものなんかじゃないって、そう思ってたから。 愛されて 愛し返したその先には、何があるんだろう? 私にとっては未知の世界。踏み入れるには、あまりに勇気がいる。 怖い、とても。 それに、雲雀くんの想いを受け入れたとして、私も彼を愛せるなんて保証はどこにもないのに。 その時彼に与える傷は、きっと私が与えられた傷と似たようなもの。 そんな思い、させたくない。 「…あれ、まだいたの」 「…」 雲雀くんが、応接室に帰ってきた。 私が色々考えているうちに、仕事は終わったようだ 私の姿を確認すると少しだけ驚き、そして 嬉しそうに微笑んだ。 「待っててくれたの?」 「…」 返事を返さなくても、彼は不機嫌になることなんか無くて。 また、紅茶を入れてくれた。 だから、なんで? なんでそんな、私からは 何もないのに、あなたはそんなに尽くしてくれるの? そう思いながら雲雀くんを見つめると、その意味を理解したらしい彼は困った様に笑って。 「だから、君が好きだからって…言ってるじゃない」 何度目かも知れないその返答をされた。 それでもまだ申し訳なくて、ずっと見つめていると、 彼は、今まで見てきた中でいちばん優しい笑顔を浮かべると、ふわ、と私の髪を撫ぜた。 「怖いんだね?」 「…!」 「僕に 愛されるのが、怖いんでしょ?見返りを求められないのが、逆に 怖いんでしょ? どうすればいいか、分からないんでしょう?」 疑問系でありながらも確定に近いその言葉はそのとおりで。 「…」 「…なら、その答えを教えてあげる。が思っているよりも 簡単だよ…とっても」 彼はふ、と笑うと、私の耳元に唇を寄せ、 「 僕に無償で愛されるのが怖いなら 君も僕を愛せばいい。 …ただ、それだけのことだよ 」 ぞわり、と体中が逆毛立った。 どくん、どくんと胸が高鳴る。 彼を見ると、やはり 優しく微笑んでいた。 |
By [ Love Mistake. ] 紫陽 華恋 (200000HIT御礼企画お題作品)