通学路の途中に存在する大きなお屋敷 その2階の窓から、いつも 道を行く人達を見つめている少女 透き通った黒の髪、肌の色は白く、見つめる瞳は いつも悲哀に満ちていた。 「ふぁ〜あ…」 今日もオレは、ネムイ。 学校指定のカバンではなく、オレのお気に入りのリュックにラケットとフデバコだけを入れて背負って(教科書は全部置き弁だC) 今日もそのお屋敷の前を歩く。 2階の窓を見上げれば、やっぱりそこには、あの子が居た。 「(今日も居る…)」 見上げてたら、不意にその子もこっちを向いて、目が合った。 初めてちゃんとその目を見つめて…気づいた。 「(スゲー綺麗な青…)」 すっげぇ綺麗な澄んだ青の瞳をしてたんだ。 とりあえず、目が合ったんでにっこりと笑ってみた。 「…っ」 バンッ 「(アレ?)」 するとその子は顔を赤くして窓を閉めた。 「閉めちゃった…」 閉められた窓に少し寂しさを感じながら、オレは学校へと向かった。 『………いの』 暗い暗い真っ暗な闇 『逃…た…の…!』 遠くに一人、誰か…女の子が 立っている 『もう…な…』 こちらを見つめて、何かを必死に訴えていて 『ここから…連れ出して…』 その肌は白くて、髪は 透き通った様に黒くて――… 「…ロー」 「ん…」 「ジロー!!」 「っ、…?」 名前を呼ばれて、目を開けたら目の前に しかめっ面の俺様何様跡部様。 「起きたか?もう六限どころか、HRも終わったぞ」 「…ん」 「もう部活始まるから、早く来いよ」 「はーい…」 跡部はそれだけ言い残して、教室を出て行った。 「(あの子…)」 夢に出てきたあの子は、確かに、あのお屋敷の女の子だった。 「(…泣いてた…あの子)」 綺麗な雫をその青の瞳から落として、何かを必死に訴えていた 「(…『ここから連れ出して』…?)」 最後の言葉だけ ハッキリ 聞こえた。 「(…)」 オレの心の中に、あの子が確かに存在することを 知った日だった。 あれから一週間。 今日もオレは、ネムイ。 いつのも様にお屋敷の前を通り、2階の窓を見上げた 「(…あれ?)」 けれどそこにあの子の姿はなく、窓はしっかりと閉められていた。 「(…。)」 なぜか、ガッカリした。そのことに、オレは疑問を抱いた(何でガッカリしたんだろ…) そのとき、 バァンッ 「ッ」 「もう嫌よこんな家!!」 「っ戻りなさい!」 「お母さんの馬鹿っ 全然私の気持ちなんて分かってないわ!」 「ッ!!」 あの女の子が、お屋敷から飛び出してきた。 ドンッ 「っ、」 「すみませ、…っ!」 オレにぶつかって、オレの顔を見てその子は驚きの表情を見せると、そのまま走り去っていった。 「え、ちょ…ど、どうしたんですか?」 オレはとりあえず、其処に居た、その子…ちゃんのお母さんと思われる女の人に声を書けた。 「貴方は…?」 「いや、ただの通行人なんすけど、え、えと、あの子…ちゃんって、いつもあの窓から外を見てた子ですよね」 「…そうね、いつも…見てたわね」 「あの…なんかあったんですか?」 「…関係の無い貴方に話しても仕方ないと思うけど… あの子―――… 「っはぁ…はぁ…(何処…っ?)」 生まれつき体が悪くて…あまり外に出てはいけないの だから、軟禁に近い状態で…ずっと、屋敷に閉じ込めてたの 「っ、はぁ…はぁっ…」 他の子は学校に行って 外で遊んで… 自分はずっと家を出られないのが、辛かったんでしょうね… 「ちゃんっ…」 遂に、家を飛び出したの… 「(走ったりしたら発作を起こしかねない…ちゃん。無事でいてっ)」 それを聞いて、オレは思わずちゃんを探しに走り出したんだ 「ちゃんっ」 「はぁ…はぁ…、っ!?」 小さな公園に、ちゃんは居た。 ブランコに座って、胸の辺りの服をつかみながら、苦しそうにしている。 「大丈夫!?走っちゃダメじゃん…!」 「はぁ…だ、れ…」 「オレっ、芥川慈郎!ジローでEーよ! じゃなくてっ、」 「いつも…、屋敷の前…通ってた…眠そう な、人…」 苦しそうに言葉を紡いだちゃんを、オレは痛々しく感じながらも、 オレのことを知っていてくれた喜びが、胸の中に広がった 「そうだよっ いつもちゃんを見てた! 寂しそうだなって…ずっと、思ってて…」 「…!」 「やっと、その意味が分かったんだ…」 「…おかあ、さんにでも…聞いた、の…?」 「……ウン」 「お母さんは、ぜんぜ、ん…分かって ないの… 苦しく、な ることよ、り…独りで居るほうが、苦し、いってこと…」 「…っ」 「寂しい、ことの方、が…辛いって、こと…」 ちゃんは涙をポロポロ流しながら、必死にそう言った。 「逃げたいの 『………いの』 逃げたいの…! 『逃…た…の…!』 もう嫌なの 『もう…な…』 ここから…連れ出して…」 『ここから…連れ出して…』 「…ッ!!」 夢の中で彼女が言いたかったことを、オレはこのとき、分かったんだ 「…ダメ、だよ」 「っ…!」 「寂しいなら、オレが会いに行くから!毎日、ちゃんに会いに行くから!」 「…っ!?」 「オレが、オレが…っ」 「じろ、くん…? 泣いて、る の…?」 「…っ」 気付けば、オレの目からは、涙が零れ落ちていた 「寂しいなんて言わないでよ…悲しいなんて、思わないで… オレが、居るから…!」 「ジロー…く、ん…」 「オレ、ちゃんが好きだよ…」 言葉にして、初めて分かったんだ いつもいつも、窓を見上げてしまう意味も、窓が閉まっていて、ガッカリした意味も。 ぜんぶぜんぶ、 キミが 好きだったからなんだね 「おっはよーございまーす!」 「ジローくん!おはようっ」 それからちゃんは家に帰って、オレはその日から、学校に行く前と学校の帰りに、ちゃんの家に訪問するのが日課になった 「ジローくん、これ食べてみて?さっき焼けたとこなの」 「ありがとうございますっ」 ちゃんのお母さんが、パウンドケーキを差し出してくれた。 オレは遠慮なく受け取り、口に含む。 「〜美味Cーvv」 「そう、良かったわ」 お母さんとも仲良くなれて、オレの毎日は、とても楽しくなった 「あ、ジローくん、ちょっと庭に来て。 私が育てていた花が咲いたの」 「へー見るっ!」 「こっち」 ちゃんに促されて庭に出る 「これよ」 そう言って指差された花を見ると、 それは他のどんな花よりも可愛くて、ちゃんを連想させた 「…可愛Eーね」 「…ありがとう」 暫くその花を見つめていたら、不意にちゃんが口を開いた 「あのね、ジローくん」 「んー?」 「私、ジローくんのこと…好き だよ」 「ウン… …って えぇ!?」 「な、なんでもないっ」 ちゃんはそう言って、後ろを向いてしまった けれど耳まで真っ赤になっていて、照れてるんだなぁって思うと、 この花よりも、ちゃんが1ばん可愛く見えた 「ちゃんだーい好きっ」 「きゃぁああっ ジローくんっ!」 後ろから抱きしめたら、ちゃんは一層恥ずかしそうに叫んだので、 もっともっと 可愛く見えた。 「もう、離さないよ」 そう耳元で呟いたら、 キミは 困ったように、嬉しそうに 微笑った。 困ったように、嬉しそうに |