神様なんて居ないと思ってた
けど、梅雨のある日
貴方と出会えた。
ずっと願っていたことが、叶ったから
最初で…最後
私は、初めて居る筈ないと思っていた神様に感謝した。
そして同時に…
蝕まれてゆく身体
その、運命を
…恨んだ………
紫陽花
3年生になっても、やっぱり跡部くんと同じクラスになることはなかった。
( くじ運無いのかな…それとも神様が意地悪してるのかなー… )
半ば、諦め気味に溜息をひとつ吐いた。
関係ないようなくじ運と信じていもいない神様の恨みながら、目を伏せる
今度は跡部くんの名前を探そうと思って、表を見上げる
…彼の名前は、すぐに見つかった。
『跡部 景吾』
ただでさえ『あ』だと言うのに、その文字だけは私にとってはあまりにも特別すぎて、
輝いて…なんてありがちなことは言わないけれど、そこだけ異空間だったのは確かだ
名前を見ただけで心臓が跳ねるというのは…異常だろうか
時間もあるので跡部くんのクラスには誰がいるのかな、と名前を見ていくと
「あ、俺跡部と同じクラスやん」
「侑士…羨ましすぎる…ズルイ…侑士のばーか」
羨みの目で隣に立つ関西弁伊達眼鏡を見上げて(否、睨んで)言った。
侑士は苦笑して此方を向く
「そんなん言うたかて…こんなん不可抗力やん…」
「フンだ」
「ちゃーん…」
することは、ほぼ同じだった。
1、2年の時と同じように教室からテニスコートを眺めた。
…3年とも教室の位置がテニスコートの見える場所だという所には、微妙な運が作動したのだろうか
( 同じクラス…せめて隣のクラスに… )
願っても、もう全て遅いことなのだけれど。
そして、4月の下旬
自宅、家族の居ない、一人きりの自室で 私は静かに、倒 れ た 。
見たのはあなた
聞こえたのは、あなたの声
目覚めて目に入ったのは 白
…白。
「っ…」
身体を起こせば、少し重かった
「目ぇ覚めた?」
そう言ったのは、侑士
…貴方と重なったのは、さっきまで見ていた夢に貴方が出てきたからだね…
―――侑士と貴方なんて 違いすぎているのに。
…貴方を想いすぎた?
「侑、士…」
「此処、俺の父親が院長やっとる病院やねん
丁度、氷帝学園の裏っかわや」
「ああ…あったね、病院」
「ビビるわー…おとんに用あって病院来たら運ばれて来てんもん」
ふ、と気が付いた
「…そういえば、私…何で運ばれてきたの?」
「………覚えてへんの?家で、倒れたらしいで」
「私…病気?治る?」
ポーカーフェイスの彼の表情が 一瞬
「…、ああ」
僅かに 歪んだ
「…バレバレじゃん、侑士のばーか」
侑士の去った、一人の部屋で
白よりも綺麗な、透明の雫が一滴頬を伝った
5月中旬
成すことも無くただベッドに寝転がっているのは暇すぎて
…その日は、雨が降っていて
看護士たちがバタバタしているのを良い事に、私はこっそりと病院を抜け出した
…と言っても、すぐ傍だったけれど。
その時見つけた、大きな木
なんとなしに登ってみると、学園内が覗けた
学園から離れて 早二ヶ月
懐かしい、と 思った
…会いたいと 思った…
暫くすると私の呼ぶ声が聞こえてきて、
振り返れば侑士がいた
「おま…何やっとんねん雨ん中で…」
「っ、侑士…」
「…?泣いとんのか?」
「 泣いてなんか ないよ 」
雨は、私の涙を隠してくれた。
私はこのとき、雨が大好きになった。
侑士は雨の中に隠された涙に気付くことなく…、或いは、気付いていても気付いていないふりをして
コワレモノを扱うように、そっと 私の手を取って歩き出した。
その木の上から貴方を見つけて、そこへ行くたびに見つめるようになったのは、次に雨が降った日のこと。
『梅雨前線が…』
「( 梅雨、かぁ… )」
自分の苗字であること以上に、…雨が降るのだ。それも、長い期間。
嬉々とした気持ちで居ると、担当の先生がやってきた
「ちゃん」
「はい?」
「今から言うことを、落ち着いて聞くんだよ」
「…はい…?」
「 キミの命は、二ヶ月弱…あぁ、そうだね…梅雨が終わる頃までにしか持たないだろう… 」
悲痛そうに、けれども伝えなければ、と聞かされた言葉に
それは嘘ではないのだと、ホントウの 事実なのだと。
…認識すればする程、それが私の運命なのか、と
生命と共に与えられたこの運命を、初めて恨んだ
その日の午後、雨が降り出すと同時に病院を抜け出し、その木へ向かった。
学校が既に終わっていることは分かっていたので、もう見れないな、と思い溜息を吐く
…そのとき
バシャバシャバシャ…
近づいてくる足音
これだけ大きな木だ、誰かが雨宿りでもしようとしたのだろうと下を見やると
…嗚呼 神様
貴方にたった一度だけ感謝します
これはもうすぐ旅立つ私への情け?
…それでも良いのです
ありがとう
「…あれ?お客さんだ」
出来るだけ 平然を装って。
知らないふりをして
誤魔化すように、微笑んだ
その時貴方が私を見て年上だと思っただなんて知りもしないで (同い年なのに…)
私は、言い知れない喜びと絶望感に満ち溢れていた
梅雨――あめ―アメ―Rain――
( 愚かなんかじゃないと微笑んだキミは、とても綺麗だった )