そ れ は き っ と 、 1 つ の 奇 蹟
紫陽花
そっと触れたら。どこか暖かかった。
あれから1ヶ月…
彼女と出会った場所
彼女は今此処に、居るのだろうか
この木に、宿っているのだろうか
思い出せば思い出すほど、想いは募り
嗚呼、忘れられない。
この想いを捨てられたのなら、どれだけ楽なのだろうか
「……」
好 き だ
口元だけで、カタチにしてみる
言葉にすれば、消えてしまいそうだから
此処に来るたび 記憶は戻る
多分いくら季節が巡ろうとも、消えることは無い
色褪せつつ、心に 残って。
あの日キミと出会えたのは、1つの奇蹟だった
偶然が重なり合った必然
俺たちは、出会うべきして出会ったのだ
俺があの日、車で帰っていたら
あの細道に入らなかったら
キミに気付かなかったら。
きっと、知ることはなかっただろう
雨の優しさも
雨の冷たさも、暖かさも
あの衝動も 焦燥感も 喪失感も
愛しいという感情も、大切という感情も、
抱きしめた体の体温ではない、温もりも
この 想いも。
彼女は、紫陽花のようだった
梅雨の中に咲く、美しい紫陽花。
梅雨のときにだけ、輝く花。
俺だけに輝く花
綺麗で 美しくて
今にも花びらが堕ちてゆきそうなほど儚くて
愛しかった。
「…ずっと、見ててくれるんだろ?」
『消えたら…そうだな、ずっと跡部景吾のこと見てるよ』
「俺は…お前に恥じない生き方をするから」
もう流されない。
“跡部”なんて関係ない。
俺の思うように
俺の望むがままに。
キミの傍で
「…雨」
明るい空から、水滴が落ちてきた
「…?」
これはキミの肯定の想い?
…そうならば、いい。
子供ながらに愛していた
中学生ながらに想っていた。
世界から見れば一瞬で
俺たちにとってはあまりに大事すぎた時間
決して長くはなかったけれど、確かに 俺たちは居たんだ
暗い空の下 雨に咲く紫陽花のもと
ずっと、ずっと忘れない
キミを
梅雨の時期に、また 会いましょう
紫陽花の花
梅雨――あめ―アメ―Rain――
( - 後書き - )