これは恋だと、愛だと お前は言った

確かにそうなのかもしれない

けれど、

恋とか愛とか そんな言葉で表せられるような そんな簡単な感情じゃない



言葉にしてしまえば空気に融けて消えてしまいそうな程



その想いは 儚かった。































紫陽花

















































「これからも 会いに行ったってな」


病院を出て、やっと俺は足を止めた
追いついてきた忍足が開口一番俺にそう言った
その言葉に俺は笑むことで返すも、疑問を捨てきることが出来ず、歩きながら忍足に振り返った


、入院してたんだろ?何でずっと病院の外…しかも木の上なんかに居たんだよ」

その問いに、忍足は答えた

「アイツ、雨好きやろ?やから病院空いてる時…つまりは面会OK時間あたりはずっと外に出とったんや
 雨やったら看護婦さんとかみんなバタバタしよってバレにくいしな」

…そう答えた忍足の表情は


いつもの 人当たりのいい  笑みだった


「そうか。…じゃ、部活に戻るぞ」
「…お前が放ったらかしとったんやん…」


忍足の言葉を流し、俺は歩くスピードを速めた








「跡部、景吾…

            ………跡部くん………」









振り返ることなど せずに









































  コンコン


「はい」

「跡部だ」

「…どうぞ」


少し間を空けて放たれた返事に、俺は静かにドアを開ける
刹那目に入ってきた白と、変わらぬアイツの姿に目を細めて


「よぉ」

そう言えば、も「こんにちは」と言って微笑んだ

「…お前、とんだおてんば娘なんだな」
「え?」

俺の台詞に、思ってもみない言葉だったのか、驚いたように首をかしげたを可愛いと思った自分が
末期だな、と思いつつ言葉を続ける

「雨が好きだから、なんて理由で病院抜け出すなんてよ」

クク、と笑った俺に、は一瞬目を見開いてから、口を開けた

「…それ…侑士に聞いたの?」
「ん?ああ」
「そっか。…他に、何か聞いた?」

そう言われて

「…」


気付いた














「何も 聞いてない」














重要なことは 何も聞かされていないということに。



「…お前、何で入院してるんだ?」
「………跡部景吾って…意外とばか?」
「アーン?」
「病気だからに決まってるじゃん」
「…」

否定したかったのかもしれない
彼女が病に侵されているということを
…入院する理由など、それしかないと分かっていたのに

「…病気なら、何で病院を抜け出したりするんだよ」

呆れたように、寧ろ嘲るように言った俺の言葉にさえ アイツは綺麗な笑みを浮かべて


「…病気だから 抜け出したんだよ
 此処に居ると…窮屈で…
 雨に触れる事すら できないから…」


儚げな笑顔で言葉を紡いだ

俺はなんとも、自分が愚かしく思えて。



俺が雨を快く思っていなくとも

他の奴は違うかもしれない

いや、現に違うのだ

少なくとも目の前にいる彼女は雨が好きだと言う。


…言ってしまえば、俺がテニスをやっているのは勿論好きだからなのだけれど

嫌いと言う奴もいるということだ



…そんなことに、気づけもしなかったなんて。



自嘲するように笑みを浮かべ、

「悪い」

と 一言伝えた。


言葉が足りないのは重々分かっていた。

けれど


「違うよ。…ありがとう」


何が違うとか 何に対してお礼を言っているのかとか


その時の俺には、全然分からなかったけれど










そう言ったアイツの顔が、今まで見た笑顔のなかで1番輝いていたので










ただそれに見惚れて、俺は問うことさえも忘れていた――――




















梅雨(あめ)――あめ―アメ―Rain――


( 言葉にすれば消えてしまうのならば、ただ 心の中で )