雨が降っている。




広いグラウンドに、大きな池を、川を 作り出す




そこを赤、青…カラフルな傘を差した生徒が歩いてゆく




改めて見つめてみると、少し不思議な感覚に陥った。







…なんて、思ってる場合じゃない。






「やみそうにないし…早く帰ろ」




































宿り、雨をBGMに




































数十分前、HRが終わって帰ろうとしたとき、雨が降り出した




友達が「入ってく?」と気を利かせてくれたけれど、家が正反対な為、そこは断っておいた。




すぐにやむだろう、なんて軽ーく思っていたけれど、どうやら今日の雨は、やむということを知らないらしい。











「よし…行くわよ Bダッシュ!」





昔、マ○オが好きだった所為か、自然と出てきた言葉はBダッシュ。でもそんなの気にしない。




気にしてられない。




雨が、私の上に降り注いで、私の服を濡らしてゆくから。




















































「も、無理…」





走るのにも限界が来て、とりあえず休憩がてら雨宿りしようと思った。




丁度目に入った、バスなんて滅多にくることのない屋根ありのバス停に向かう








「( 誰かいる…? )」





最初は誰か分からなかったけれど、近づくに連れてハッキリしてゆく先客の姿




目立つ銀髪に、切れ長の瞳。印象的な口元のホクロ、スラッとした体形の 水も滴るいい男。




こんなの、一人しかいない。





「仁王…くん…?」


「…





名前を、呟く様に呼べば 彼は私の方を向いて、小さく私の名を呟いた。



ポタ、ポタと水滴が、彼の髪、頬を伝って 床へと落ちてゆく



びしょ濡れの彼は、いつもより色っぽく見えた。





「どうしたの?雨宿り?」

「…それしか無いじゃろ」

「そうだよね…ゴメン」




当たり前なことを聞いてしまった。


仁王くんも呆れてるっぽい…マズった…




「…怒ってるわけじゃなか

 そげん落ち込みなさんな」


「えっ、あ…うん」




そんなに私が落ち込んでたのか、仁王くんは簡単にフォローを入れてくれた
















…仁王くんが居たとき、嬉しさと不安で胸がいっぱいになった。





仁王くんと2人きりになれる嬉しさ。




拒絶されないかの不安。








私は、仁王くんが好きだ






前に、一度だけ委員会が一緒になったことがあった



仁王くんは、嫌々やらされてたって感じだけど、それでも仕事はちゃんとやっていて。



一度、私が重い荷物を先生に運ばされた時、何も言わずに代わりに運んでくれた



それだけ それだけで。



私は一瞬で、恋に落ちたの

















「仁王くん…あんまり濡れてないね?」


「ん?あぁ…帰っとる途中で降り出したからのぅ…」


「そうなんだ…

 あ、タオル貸すよ!風邪引いちゃまずいでしょ」


「? 風邪引いてまずいんは、女子であるの方じゃろ?」


「何言ってんの…王者立海大のテニス部員である仁王くんが肩冷やして 風邪引いて、なんて…そっちのがまずいに決まってるでしょ

 真田くんに怒られるよ」


「あぁ…そういうこと」






仁王くんは少し納得した様に頷いてから、タオルを受け取った



…実は、仁王くんとこうやってちゃんと話すのは、初めてだったりする。



急な2人きりに戸惑いつつも、必死に話す



名前をちゃんと覚えられていること…それだけで、嬉しかったり――…





  ぶぁさっ


「っ?」




急に、私の頭、顔にタオルが押し付け(?)られた


状況を理解できないまま、されるがままに頭をタオル越しにぐしゃぐしゃと撫でられる




「に、おうくっ…?」


「確かに俺はテニスプレイヤーじゃけぇ

 けど、やっぱ女子の身体のが弱いじゃろ 頭だけでも拭いときんしゃい

 俺はそれからでえぇ」


「あ…ありがと」




ほら、そんな優しさ。



そんな 貴方の優しさに、私は…




「…」


「…なァ 

 いや…


「っ?」






「好いとぅよ」

「え…?」







急に言われた言葉に   一瞬、思考が停止した。





何を言われたのか分からなくて、必死に頭の中で整理する







「仁王…く…」






理解して顔が火照る



水滴が頬を伝う



それさえも温めるようなほどの、半端ない顔の熱さ






「いつも一生懸命なんが好き

 面倒臭い仕事でも、一度引き受けたからにはちゃんとやるっていう精神が好き

 俺と2人きりになって、戸惑いつつも必死に喋ってる可愛いところが好き…」





仁王くんが  静かに、言葉を紡いでいく





雨の音をBGMに聞くその言葉は、私の涙腺をこれでもかと云うほどに緩めた。






「仁王く…」


「雅治て呼んでくれんの?


「まさ、…はる」


「よろしい」





ニッと笑った仁王くんに、ダムが壊れた様に私の目からは涙が溢れた




抱きしめられて、冷たい服と共に、彼の温もりを全身に受ける





「知って、た…?私、委員で一緒に なったとき、から…

 雅治の、ことっ 好きだった…んだ、よ」


「…知ってた」


「クスクス…雅治らしい…

 ズルい、よ…」


「なんもズルくなんてなか

 俺ものこと、ずっと好きやったけぇ

 同じ委員になる前から、ずっと」


「え?」


「いつも、すごい頑張ってる子が居るな て思うてたんよ…違うクラスの子で 名前も知らん子じゃったけど

 ずっと…好きやった。

 同じ委員になれて、名前を知って、笑顔を知って…どんどん好きになった。

 の、こと。」






雅治の言葉に、不安があちらこちらに飛び去っていく



嬉しさだけが、胸に残った。





「ここで雨宿りしとってよかった」


「…私も…ここに来て、よかった」






貴方に会えたから。
















雨は そんなに好きじゃなかったけれど、今日から、大好きになりそうだよ


















ね、雅治…