人の上に立つ器 関東大会が終わって 全国大会がまだ始まる前のお話。 「今日のメニューは以上だ!それでは皆、各自練習を始めてくれ!」 「「はいっ」」 「…ああ、幸村。ちょっと来てくれ」 「!…はい」 メニューを言い終えた部長に、幸村が呼ばれる 幸村は呼ばれた意味を感付き、一瞬身体を強張らせる。 が、そうしていても仕方ないので、一度息を大きく吐いて部長の元へ歩き出す それを見て感付く者、快く思わない者、何も思わない者、何も気づかない者。 そして、気遣う者。 「大丈夫だよ、幸村」 「…、うん、ありがとう」 マネージャーであるは幸村の背中に触れ、それだけ言うと優しく微笑む 珍しく緊張、不安に陥っていた幸村はそれをみて幾分か落ち着きを取り戻す スッと前を見据えると、に「行っといで」と促され、今度こそ部長の元へと歩み寄った 「何でしょう、部長」 「…お前に時期部長を託したい。受けてくれるな?」 「!…」 分かっていた。 以前からそれとなくアピールはされていたし、周りの人間にも言われていた。「次期部長はお前だ」と。 実力も、今では部内で一番上だ。 それでも、やはり。実際に面と向かって言われれば、ぐ と押し寄せてくるものがある。 いや、押し寄せる、というよりは 圧し寄せる、と言えばいいだろうか。 部長としての責任、覚悟、度量…その他諸々の色んなプレッシャーが、襲い掛かってくる。 部長とは、人の上に立つということ。 人の上に立つには、並以上の゛器”が必要である 自分と大差ない実力を持つ真田が部長になってもいいのではないかという言葉も出た けれど自分が次期部長に選ばれたのは、゛器が違うから”らしい。 真田は部長の器ではなかったのだ。 そして、自分は部長の器を持っていた。 それだけのこと。 俺に、本当にそれだけの器があるのか。 何度も何度も繰り返した問いが頭の中で駆け巡る ふと視線を感じてそちらを見たら、が、先ほどと同じように 優しく、微笑んでいた。 『 大丈夫だよ、幸村 』 さっきの言葉が蘇る。 大丈夫。そう、大丈夫だ。 俺は選ばれた。 それ即ち、俺にはそれだけの器があるということ。 そして、俺自身にも それだけの覚悟があるということ。 「はい、部長」 「…」 「やれます。いえ、やります。やり遂げて見せます。王者立海大の 部長を。」 「…ああ、頼んだぞ!」 部長はニカッと微笑むと、俺の肩をバンバン叩いた 少し痛いと思ったが、そこはとりあえず我慢しておく 「俺もな、最初は不安だったよ。色々とな。俺でいいのかって」 「!…はい」 「けどな、そんなもん大丈夫に決まってんだよ。だって、部長は1人じゃねぇからな。 副部長も、他の部員も、マネージャーも。みんな助けてくれる」 「…はい!」 「副部長は後日お前と俺、副部長の3人で決める。ま、大体決まってるようなもんだけどな」 ちら、と部長がやった視線の先には、いつもどおり帽子を被って練習に励むチームメイトの姿 にやり、と笑う部長につられて、俺も思わずクス、と笑みを洩らした 「よし、んじゃ今日はそれだけだ。 …全国二連覇、成し遂げような」 「はい!」 部長に頭を下げ、練習へともどる その途中、が走りよってきた 「ふふ、頑張ってね、次期部長サン」 「…ああ」 そう、俺は1人じゃない。 が、真田が、みんながいるから 大丈夫。 「新部長になった、幸村だ。俺が持つ最大の力を振り絞り、この部を引っ張っていきたいと思う。宜しく頼む この間全国大会が終わったばかりだが、俺たちは休んでいられない。 目指すは来年の全国三連覇だ いいな!」 「「 はいっ 」」 「…今年もよろしく、」 部員たちが練習に向かい、俺とだけがその場に残される 「ふふ、頑張ってサポートさせてもらいますよ、新部長サン」 「頼りにしてるよ、マネージャーさん」 いつか見た優しい笑顔を浮かべるの頬に、ひとつだけキスを落とした 今までのお礼と、 これからの 俺たちの始まりを祝して。 |