紅に染まる夕方、駆け抜けてゆく風が、酷く秋を感じさせた。―――…それはそうだ、この間 夏は終わったのだから。 中学3年、つまり、中学最後の全国大会。俺たちは、敗北を帰した。 俺自身は、赤也とのダブルスで勝利をおさめたのだが…最終的には負けたのだ。 別に敗北してしまった者に対して恨みつらみ言うつもりもないし、思ってもいない。 けれど本人たちは結構、責任を感じているようだ。お門違いもいいところだと言うのに。 けれどそれを敢えて俺の口からは言わない。きっと誰かが気づかせてくれるだろう。俺の役目ではない。 そこでやっと、自分はまた考え事をしていたことに気づいた。今は、生徒会のミーティング中だった。 ホワイトボードを見る。…先程と、面白いくらいに違う議題だった。 今話している内容については、大体分かる(我が校にもっと草花を増やすための募金についてだ)。 だが、先程の議題がどう議決したのかが分からない。確かにデータで予想はできているものの、 絶対に正しいとは限らない。俺としたことが…。今日は、考え事が多い。 それが何のせいかって?それくらい分かっているさ。逃げても否定してもいない。 精市や仁王、丸井やジャッカルのように、罪悪感や後悔に駆られているわけではない。 ただ、気をとられて仕方ないのだ。過ぎてしまった事をとやかく言うのは、それこそお門違いだと分かっているのに、 思わずにはいられないのだ。――― “ 勝ちたかった ” と。 1年の時から、精市や弦一郎、そして先輩達と築き上げた王者と言う名の栄光。 データでは、勝てる筈だった。…関東大会の時もそうだ。やはり、データでは勝敗は測れない。 無敗―――人間なのだから、そんなことは到底無理だということくらい分かっている。 けれども、俺たちなら。…このメンバーなら、それさえも可能にできると思っていたのだ。 所詮は夢物語で、終わってしまったけれど…… 「…なぎくん、柳くん」 「…!………か」 「どうしたの?ミーティング、終わったよ?」 「ああ…すまない」 どうやら、また考え事をしていたようだ。今回のミーティングを、殆ど考え事で終わらせてしまった。 ふう、と小さく溜息をつき、資料をファイルにはさみ、ノートと筆記用具を持ち立ち上がるに声をかける。 「。…済まないが、ミーティングで議決したことなどを簡潔に教えてくれないか。全て」 「っえ?…あ、うん いいけど…」 は、酷く驚いているようだった。…それはそうだろう。いつもならば完璧に全てを覚え、理解して、 に教えるくらいだというのに、今日は全て教えろというのだから。 けれども、教えている最中に、はハッと気づいたようだった。…俺が、ミーティングに集中できなかったワケを。 だからと言って、何か問うことや、慰めの言葉をかけることもしなかった。 ただ熱心に、今日のミーティングの内容を事細かに教えてくれた。簡潔でいいと言っただろうに。 ―――…その時間はとても、心地よかった。 「―――ってことで、今日のミーティングは終わったの」 「そうか。助かった、ありがとう」 「ううん、これくらい!いつもお世話になってるし。お返しって感じで」 そう言っては笑った。その笑顔が頑張って、と俺を励ましてくれているような気がして―――。もう一度、 「…ありがとう」 と 呟いた。その言葉がに届いたかどうかは分からないが、が再び、微笑んでくれたので、 きっと届いたのだと、俺は勝手に解釈しておく。 確かに夏は終わったし、もう 中学で、テニス部で……テニスをすることはないだろう。 けれど今思えば、失ったものなど、王者という名の栄光と、連覇という歴史くらいではないか。 絆や誓いは まだ俺たちの中にある。だから――――― |
青 春
シンカー
( ま た 、 次 の 夏 が 来 る 。 )
[ Love Mistake. ] 紫陽 華恋
テニプリ完結記念ということで、フリー小説にします。期間はありません。
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