「 ゲームセット!ウォンバイ青学 越前 6−4! 」 審判の声と同時に 青学の応援席から湧き上がる歓声。 それとは逆に、静かになる立海の応援席。中には泣き出す者もいた。 レギュラーも、赤也を筆頭に、丸井やジャッカルとかは 隠しながらも、確かに泣いていた。 「…すまない、皆」 俺に託してくれたのに。 俺は、部長しての役目を、果たすことが出来なかった。 けれど、1番申し訳ないのは、俺は今、悔しかったり悲しかったりとかいう感情を持ち合わせてはいないことだ。 なんだか清々しい。とても、すっきりした気分だ。それこそ、笑顔を浮かべられるくらいに。 負けたというのに。全国3連覇を、王者と言う名を、守れなかったというのに… テニスが大好きだった。 けれど勝ち続けるうちに…王者と言う名を背負う内に、そんな感情、どこかへ消え去ってしまっていたんだ 負けて、当然かもしれない。 負けてしまった今なら、そう思う。
青 春 ダスク 朱くなり始めた空が、頭上一面に広がっている。 何故かそれが俺を責めているような気がして、俺は敢えて 上を見ることをしなかった。 全国大会が終わって、1週間が経った。 ―――そう、部活を引退してから 1週間。 放課後は、真っ直ぐ家に帰るのみ。少し図書室に寄ってから、昇降口を出て、校門への道のりを歩く。 通りかかったテニスコート。今日は図書室に寄ったため、部活はもう始まっていた。 「おら1年っ!声小せぇーぞー!」 「「 はいっ 」」 「切原部長!ストローク練習終わりました!」 「おっし。じゃあ次、あっちのコートでローテーションで1ゲームマッチの練習試合ね」 「「 ウィッス! 」」 「―――――。」 ぽっかりと、胸に 虚無感が浮かんだ。 ――― そうだ、もう、あそこに俺たちの場所はない。 部長は俺じゃない。赤也が、立海大テニス部の部長で。俺は…俺たちはもう、引退したんだ。 中学最後の 大会だったんだ、あれは。 その試合で、…最後の試合で俺は…1年のボウヤに負けて、立海を…負けさせてしまって なんてことを、してしまったんだ。 今更胸に浮かぶ後悔。 あの時は清々しい気持ちだった。負けて悔いはなかった。 だが、今は。今は違う。悔いだらけじゃないか。 勝てた筈だったんだ。相手は1年生だぞ? ――――― 最後の試合だったのに。 この、大好きな最高のメンバーで挑める、最後の試合だったのに。 「…っ…、」 静かに、一筋の光が頬を伝う。 それは、静かに地面へと降り立って、滲んだ。 きっと 実感がなかったんだ、全然。 この3年間、ずっとテニス一色だったから。テニス部、一色だったから。 いや、違う。 入院している間、テニスから、テニス部から離れていて、復帰して、そして… こんなにすぐ、またテニス部から離れることになるなんて、思っても見なかった。 すまない、皆。 そう謝ったとき、みんなは泣きそうな顔をしながら、或いは泣きながら、首を横に振った。 それでもまた、謝りたい。 俺はみんなの努力を、勝利を…無にしてしまったんだ… 「バカ村!」 「っ」 どんっと、後ろから何かがぶつかってきた。 そしてそのまま、俺を後ろから抱き締める。いや、相手のが背は低いので抱きついてるみたいだけれど。 「…、?」 「バカじゃないの幸村。何いまさら泣いてんのさ」 「え、あ…」 自分の頬を流れる涙に、やっと気づいた。そうか、これは涙だったのか… 俺は制服の端で涙を拭うと、何でもないような顔をして見せた。いや、からは見えないだろうけど 「いまさら後悔しても、遅いんだよ?」 「!」 「だったらさ、後悔なんかしなきゃいいじゃん。前ばっか見てたらいいじゃん」 「っでも、」 「来年には高校、行くじゃん。んで、再来年には赤也も来て………また全員、揃うんだよ」 分かってる。分かってるけど。 そんな問題じゃないって、も分かっているだろうに。 は尚も、優しい声色で続ける 「あの日、幸村が泣かなかったこと、強くいたこと……みんなはそれが、幸村の強さだと思ってる。 そして、それに励まされてるんだよ。自分たちも、くよくよしてられないって。悔やんでも仕方ないって」 「…」 「本当はそうじゃなくても…狙わずして、アンタは最後の最後、部長としての役目を果たしたんだよ。みんなを、支えるっていう。 だったら…それを貫くのが、元部長としての、役目でしょ?」 「…ああ、」 「じゃ、涙なんか流してないで、いつものアンタに戻りなよ」 「………」 最後にまた、涙を拭って、ゆっくりと腹部にあるの腕を外した そしてその腕を引っ張って、を腕の中に閉じ込めた 「っわぷ!!?」 「フフ…ありがとう、」 「…バカ村」 「フフ…バカ村、ね。、………覚悟はいいね…?」 「( すっかりいつもの幸村だー!!! )」 朱く染まった空を、ゆっくりと見上げた。 見上げた空は、赤く、紅く、朱く……………君のように、優しく 微笑んでいた。 [ Love Mistake. ] 紫陽 華恋 |