学校は楽しい。友達も面白いし、趣味でやってるモデルだってそこそこ楽しい。


でも、楽しくてもそんな毎日がずっと続くのはつまらない。

どれだけ新しいことを始めても、一週間も経てば元通り


「つまらない」


それが、あたしの口癖だった。





紺碧色の空に、柑子色の約束を。

# 1 // べ に ひ い ろ






「おっはよございまーす」
「おそようー。もう昼休みよ分かってんのかコンニャロー」
「分かってるっての!」
「さぁ被告人。遅刻理由を述べなさい」
はい裁判長!…眠かったからです!!
「"眠かった"は理由に入りませんー!!」


ぺしーんと頭を叩かれ、ムカついたので軽く蹴り返す。そしてまた叩かれる。暫くソレのエンドレス。

楽しい日常。でも、充実なんてしていない

そういえば今日はモデルの仕事がある日だ。
退屈が嫌で新しい刺激を求めてやってみたけど、そろそろ飽きた。
実はこの間偶然撮影を見に来ていた某映画監督に是非主演女優にってオファーきてるんだよね
今度は女優の道に進もうかな?多少は退屈も免れそうだし


「もー、何でこんなに顔もスタイルもいいのに性格こんななの!?お母さんそんな風に育てた覚えはないわ!?
「育て方が悪かったんじゃないですかー」
「こら!なってないわね、ここは 『育てられた覚えはない』 っていうのが王道でしょ!!」
「ごめんねー常に人の斜め上49度を突っ走ってる女だからさ☆」
微妙!!
 あ、それよりね、またオススメの漫画、持ってきたよー」


一番の友達である
この子はいつも新しい刺激を持ってきてくれるから、いつも一緒にいる。

( …あれ、なんかそれじゃ、利用してるみたいだなぁ )

…あ、違うか。利用 してるんだ


人間として最低かも、なんて思いつつ、が鞄から引っ張り出した数冊の漫画に目をやった


「『テニスの王子様』……何か聞いたことある。前にアニメもやってたよね?確か」
「そうそう!略してテニプリ!満を期して、これが登場です。今までで一番おすすめ!」
「オ○ラジより面白いんでしょうねー?」
「もち!」


ぐっと親指を立てる。その異常なほどの自信のありように、『テニプリ』に期待を馳せる

オリ○ジとは、あたしが今芸人でもっとも好きなコンビだ。つい最近までは次○課長が一番だったけど、飽きた。


「とりあえず手始めに10冊ね」
「…10冊は 『手始めに』 とは言わないと思います先生!」
「まぁまぁ。絶対面白いからさ。このSFマンガ
「は?テニスのスポコンマンガでしょ?」
「ううん。SFギャグマンガ。
「…はぁ…。( え、SF?そしてギャグ?ミスフルみたいな感じ? )」


とりあえず机に重ねられた10冊のジャンプコミックスを鞄に詰め込めると、あたしは一旦息を吐く

丁度そのとき、校内に昼休み終了のチャイムが鳴り響いた


「じゃあ、次移動だからね!用意しなされ」
「んー」


の言葉に曖昧に返事を返して、あたしは音楽の用意を取り出した










テニスの王子様―――通称テニプリの漫画を借りてから、早3日。
手始めに、と貸された10冊はすべて読み終えた。
オリラ○ほどではないけれど、面白い。SFギャグマンガの理由はまだ分かんないけど、そのうち分かるだろう
まぁ、とにかく、ハマった。それなりには。
みたいに 『 ああ〜跡部様…v 』 なんて感じにお気に入りのキャラとかはいないけど。
なんていうか、キャラがカッコ良いっていうよりストーリーが面白いし。

授業中や休み時間、新たに貸された11〜20巻のうちの13巻までを読み終えた。
関東大会に出るための校内ランキング戦で、
手塚VS乾の試合でえぇー!?手塚何やったの!?っていう気になるとこで終わってしまっていた
気になる。14巻がとても気になる。


「じゃあねー、
「おう!痴漢とかストーカーに襲われんなよ☆」
「ん、頑張る(?) そっちこそ掃除頑張れよ☆」
「頑張りたくねぇえええ!」 ←今週掃除当番


叫ぶに手を振って、あたしは教室を出た
昇降口で靴を履き替え、既に赤く染まり始めている空の下へと出る

校門を出て少し歩いたところで、耐え切れずテニプリ14巻を取り出す
どうせ車通りが少ない道だし、読みながら歩いても別に危なくはないだろう
そう思い、読みながら家へ向かう


( へぇ…関東大会の組み合わせはこうなるんだ… )


漫画に読みふけっていた所為で 気づかなかった。


( 氷帝かぁ…めっちゃ強そうじゃん )


車なんて来ないって、タカをくくっていた所為もあるだろう


( つかこの真田って何歳!?中学生とか絶対嘘じゃん!詐欺じゃん!訴えようよ切原君!





―――― 気づかなかったのだ。



プァップァアアア―――



小さな交差点。横幅スレスレの一台のトラックが


「…え、」


あたしに迫ってきていたことなんて。



キキィイイ……ドンッ





痛みとか、恐怖とか。そんなコトは全然覚えてない。

ただ、しっかりと脳裏に焼き付いたのは、





紅 緋 色 の 空 に 浮 か ぶ 、 テ ニ ス の 王 子 様 の 単 行 本 だ け だ っ た 。





















「っ…ん……?」


ふ、と目を覚ますと、あたしは白梅鼠色の世界にいた。


「……?………―――あ」

( あたし、トラックに轢かれたんだ )


ということは、ココは漫画やアニメとかでよく言う、死後の世界――もしくは、死後の世界へ続く霊道…とか?

( てか何でこんな冷静なんだろうあたし… )


「…浮いてる、よねぇ…」


どう見てもあたしは浮いてる。
床も天井もないグニャグニャした世界だけど、浮いてるのは確か。重力感じないし
ヤバイ。今ならネバーランド行けるかも。ピーターパンよカモン☆


「って馬鹿言ってる場合じゃないわ!
 まぁ別に…死んだのならそれはそれで良いんだけど…。死ぬ前にに謝りたかったなぁ…」


きっと、テニプリの単行本は砂とかで汚れただろう。もしかしたら、あたしの血も付いてるかもしれない。
せっかく貸してくれたのに、それはあまりにも申し訳ない。一度謝りたいよ


「ごめんね…


届くことはないと分かっていても、一応言葉にしてみる。
思いだけでも届けばいいのにと思っていると、何だか急に眠くなってきた


( っ、本格的に、死…ってか? )


日常は、あまりにつまらなかった。
だから死ぬことに対して抵抗はないし、未練だって無い。
ただ、に謝りたいし、テニプリの今後の展開もちょっと気になっていた。
でも、まぁいいだろう。これがあたしの人生の終わりなんだったら、受け入れるしかない


( …っ?あれ、は… )


白梅鼠色だった世界が、どんどん明るい光を放って、へと色を変えてゆく

薄れゆく景色の中 最後に見たものは、白色の光の中心にいる犬だった。…犬?


「 なんで犬ー!? 」


残りの力をすべて振り絞るかのように叫んだところで、あたしの意識は 途切れた



















「――み、君!大丈夫かい?」
「………、…?」


声と、光と、肩を叩かれる感覚によって、意識が目覚めていく
目を開ければ、眩しい太陽の光と、


「あ…良かった、目が覚めたんだね」
「……」


見たことも無い、リーマンオヤジ。


「あ、の…?( 30代後半ってとこかな。家では尻にひかれてるな絶対 )」
「?…ああ、君はね、ここで倒れてたんだよ」
「ここ、は…」
「青春台市の青春台町だよ。分かる?」
「…???」


聞き覚えのない地名に首を傾げる
でも、辺りを見渡すと、


( 明らかに、知ってるところなんですけど!? )


「えと…分からない、かな?」
「…いえ、分かります。多分分かります。分かんないけど分かります。多分。寧ろ分かってみせる
「……えっと、それじゃあ僕はもう行くよ。すまないね、少し急いでるんだ」
「いえ、こちらこそ…急いでるところ助けていただいて有難う御座いました」
「それじゃあね。お大事に」


リーマンオヤジが去り、あたしは一人ポツンと道の真ん中で佇む


「( ここはあたしが住んでた辺りの近くだ…多分 )」

間違いない。

( それで、ここは丁度、あたしがトラックに轢かれた交差て――――……え!? )


「そうだ…あたしトラックに轢かれた筈じゃ!?何でこんな元気なの!?服も綺麗!」


ああ、やっぱり此処は死後の世界なんだろうか。


( 死後の世界にも東京があるのかな。だからこんなに知ってる場所?いやでも聞いたことない地名だったし…。
 ああ、死後の世界は地名も変わるのかな?東京じゃなくてキョウトウとか?京都?いや教頭?
 あ、ヤバイ教頭の頭思い出しちゃったよ…。もう一度見たいなぁ あのカツラの下の見事なハゲ。
 つか東京どころか日本、いやいや世界まであんのかな?
 でもさっきのオヤジどう見てもリーマンだったよね…。仕事もあるの死後の世界!?すげ!

 ……まぁ、妄想に近い想像はこれまでにしとこう。どうにもならん。 )


悶々と考えていても埒が明かないことに気づいて、あたしはとりあえず歩き出す
ここがもしあたしの住んでるとこの近くなら、目指すはとりあえず自分の家があるはずの場所だろう



ドンッ


歩き出して、約5分。
小さな交差点で、今度は人にぶつかりました。( 当たり前だろ車になんて当たってらんないよ! )


「すいませ…」
「ったく、どこ見て歩いてやがる」


思いっきり打ったおでこを撫でながら、謝るため、その人の顔を見るべく顔を上げた


「跡部景吾…」

「アーン?何で貴様俺様の名前知って――――」

「何であたし、あなたの名前知って……」


突如襲いくる異常な程の眠気に抗う術を知らずに

ぶつかった相手―――跡部景吾に寄りかかるようにして、あたしの意識は、あの世界にいたときと同じように、途 切 れ た 。


最後に見たものは、跡部景吾とその後ろにいた男の子たちが着ていたジャージの

浅縹色 だった





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「色」をテーマにやっちまったぜ異世界トリップ☆(死)
この作品の中では色んな色の名前が出てきます。そしてその名前はその色になってます。
この1話の中で出てきた「白」も白色にしてるので見えません。でも反転したらちゃんと「白」って出てくるヨ(笑)
まぁそんな感じ。ちなみに友情です、友情。
ちなみにこの話のおおまかなストーリーをドリーム興味ない友達に聞かせたらめっちゃ面白そうと言われました(笑)
新連載控候補の中で私が一番ヤル気あるものです。シクヨロ。