…なんだか、明るい気がする。

そして、何か暖かい。

何だろう、これ?あたしはこの感覚を、知っている?…ううん、知らない。

幸せで、充実した、何かを感じる。


遠くで聞こえる 複数の声は、誰の声―――――…?





紺碧色の空に、柑子色の約束を。

# 2 // う゛ ぁ に ら い ろ






「…。」


すうっと目を開けると、見たことも無い天井が目に入った。
なんだか暖かさを感じさせるような、ヴァニラ色の天井が。
左に目を向けるとそこもヴァニラ色の天井で、夢ので感じた暖かさはこれだったのかな?と一瞬思い、
自分は馬鹿かとすぐにその考えを一蹴した


「( あたしとしたことが、そんなロマンチストみたいな…家末代までの恥!! )」


ふう、と溜息を吐くと、バンっという扉が開く音が聞こえ、
そちらを見ると、あたしとそんなに年の差もないであろう男の子たちがぞろぞろと部屋に入ってきた。


「…目が覚めたか」
「…跡部、景吾…?」


( あたし…この子たちのこと知ってる… )


違う、知らない。いや、知ってる。でも、知らない。なんで、名前を知ってるの。
矛盾した思いが、ぐるぐると駆け巡る


「気を失う寸前も俺様の名を呼んだな…何故名前を知ってる?」
「分からな、…っ忍足侑士?」
「へ?俺の名前も知っとるんか」
「君だけじゃない…
 向日岳人…芥川慈郎…宍戸亮…樺地崇弘…鳳長太郎……そこのキノコくんはわかんないけど…」
「(ピクッ)キノコ…?」
「まあまあ日吉落ち着けって!」


向日岳人がキノコもとい日吉くんを宥める。
…でも、今はそんなことはどうでもいい。

何であたしは、この子達のことを知ってるんだろう。


( ――― 違う。 )

それだけじゃ、ない。


この子達が着ているジャージさえも、あたしは知ってる。
確か…


「氷帝学園…?」
「…氷帝を知っている、か。俺たちのファンかとも一瞬思ったが…その様子、そうじゃねえらしいな」
「ファンって何。芸能人でもあるまいし…」
「フッ、俺様のこの美貌に女どもが虜になるのは当然のことだろう?なあ、樺地」
「ウス」
「( …え、 )」


何このイタい子…っ!

なんかさっきから1つ1つの動作が優雅っていうかかっこつけだと思ったらナルシ!?
いや、あたしもある意味ナルシストなんだけど ( あたしより美人な女なんていない!← ) でも…


「…すまんなあお姫さん、跡部はいっつもこんな感じやから」
「忍足侑士…。いつもこれなの?疲れない?」
「そうやな」
「…あんたたちも頭おかしいんじゃないの?うざくない?
「…、姫さんハッキリ物言う子やな…。俺らはもう慣れたんや」
「慣れた…」


な…

慣れたくねええええ…!!


「おいお前ら。何をこそこそ喋ってやがる」
「すまんすまん」
「…して、女。お前、名は?」
「……
、ね。年は」
「高2」
「俺たちより2コ上か」


跡部景吾はじーっとあたしの顔を見ながら質問してきた。
名前や年の次は、住んでいるところを。
けれど―――――


「…え?今、なんて?わんもあぷりーず?
「だから…。八王子市なんてところは、この東京には存在しねえっつったんだよ」


もう一度言われたその言葉に、頭がぐわんぐわんする。
どういうこと、だろう。
東京都八王子市。あたしが住んでいたところ。
でも跡部景吾やそのほかの子たちも、東京にそんな場所はないという。


( …そういえば! )


最初に会った、リーマン。
あの人は確か、ここが青春台だと言った。聞いたこともない、地名。

まさか―――


「跡部景吾!東京の地図見せて!」
「アアン?」
「早くっ」
「チッ…これだ」


部屋においてあった机の引き出しをごそごそあさると、彼は1つの紙を投げてよこした。
あたしはそれを手に取ると、ばっと広げる
そこには―――


( やっぱり…!八王子市のところが、青春台市になってる…! )


渋谷、原宿、目黒、六本木…八王子市以外は、すべて同じなのに。


―――思えば、おかしいことだらけだ。

あたしはトラックに轢かれたはずでしょ?なんで傷だらけで病院にいないの?
なんであんな道端(轢かれた場所だったけど)で、元の服装で、何の外傷もなく、倒れてたの?


…分からない。

分からないけど、けど…何かがおかしい。何かが、起こったんだ、あたしがトラックに轢かれたあとに。


( そういえば… )


轢かれてから、リーマンに起こされるまでの間、あたし、変なところにいた。白梅鼠色の、よくわからないところに。

あそこが何か、引っかかる。死後の世界かと思ったけど、今こうして生きてるわけだし―――

あたしがただ打たれ強いのかと思ってたけど、そんなレベルじゃないもんね。トラックだし


「…おい!聞いてんのか」
「ッ…なに、跡部景吾?」
「お前の住んでいるところは分かったかと聞いたんだ」
「…」


この、モヤモヤを、説明する自信が無い。
説明しても、きっと分かってもらえない。なら―――


「…分からない。っていうより、自分の名前とかくらいしか分かんない…通ってた学校の名前も、思い出せない」
「記憶喪失か…。俺たちのことは?何で知ってる」
「それも、全然…(ていうより、これはほんとにほんとに分かんない)」


…原因が分かるまで、下手なことはいえない。
とはいえ、このままじゃ、あたし生活も出来ないんだけど…

はあ…と溜息を吐いていると、


「俺様の家に住め」
「…は?」


跡部景吾が唐突に言い出した言葉に、あたしはただ驚くしかなかった。
この人は、何を仰っているんだろうか。


「跡部!?お前何言うとんねん」
「何って、そのままだが」


忍足侑士の言葉にも、跡部はさらっと答えた。
なに、この子…支離滅裂すぎるんですけど。

…ああ、ナルシストだもんね。


「まあ君がちょっと頭おかしいことは置いといて、
 何で急にそんなこと言い出すわけ?さっき出会ったばかりの、記憶喪失の身分もよく分かんないヤツなのに」
「お前の外見が美しいからだ」
「「 ・・・・・・・・は? 」」


跡部景吾の言葉に脱力したのは きっとあたしだけじゃない。
現に、忍足侑士の口からは何か白いもんが出てるし( …って魂じゃん!
日吉くんの額には青筋。他もまあいろいろ。


「あたしの見た目?」
「そうだ。お前ならば、俺様の隣にいても見劣りはしない。俺様に相応しい女だ」
「…ハア」


跡部景吾の言葉に、おもいっきり溜息を吐いた。忍足侑士(の魂)を掴みながら。


「アンタ、馬鹿?」
「アアン?」
「…でも、」


フッと艶やかに微笑むと、そこにいた男どもは頬を赤らめた。跡部景吾含め。
あたしもまだまだ捨てたもんじゃないわね!(フフン)


「跡部景吾。アンタが馬鹿なのはよく分かった。でも…その話、あたしにとってはいいものすぎる」
「だっ…だよな!ったくクソクソ跡部!何考えてんだよ!」
「ってことで、喜んでお受けします☆
「ええー!?」


跡部景吾はニヤ、と口角を吊り上げると、パチンッと指パッチンをした


。お前には学校も通ってもらう。ただし…中学3年生としてな」
「…はい?」
「常に俺様の傍にいろ」
えええええ!?そんな若い子のところに行くなんて恐ろしい!
「おばさんみたいなこと言うなや…。2コしか違わんやろ」
「でもさー…。…てかさっきの指パッチンて意味あったの?
「でも跡部、もう新学期始まってんねんで?ややこくないか」
「俺様に不可能はない」
え、スルー?


あたしが素敵にスルーされている間に、話はどんどん進んでいき。
あたしが明日から氷帝に編入することが知らない間に決まっていた。


「…え、あの中三逆戻り決定ですか」


あたしの呟き(という名の嘆き)は今度はスルーされず、今しがた起きたばかりの芥川慈郎が
にぃいっこり微笑むことで、肯定された。

ちなみに、あたしの住む場所は跡部景吾の家ということだったのが、
他のメンバーの「お前だけずるい」という声により、一週間ずつのローテーションで
色んな人の家に住み込むことに決まった。…え、あの 言っていいですか。



めんどくせー。





そんなこんなで始まった、不思議な世界での生活。


早くも  波 乱 の 予 感 。





BACKTOPNEXT



....orz