神奈川県のとある町にある 私立 立海大学付属中学校。
中学テニス界での王者であることでも有名な、智育と体育を両立するこの学校

立海大中学校は今、ある噂でもちきりだった


“ 苛められて自殺した女生徒が自分を苛めた人達を呪っている ”


火のない所に煙は立たぬ。
この噂も例外ではなく、ちゃんとしたある事実から基づいた、ある意味真実と言える噂だ
その事実というのは、
女生徒が自殺した数日後から、立海の生徒達が次々に怪我をしていった。
怪我をした生徒は全員、以前自殺した女生徒を苛めていた者だったのである。
特に殴る蹴る等の暴行を加えていたある女子グループのリーダー的存在の女子なんかは、特に重症を負ったのだ
その事実を知った数人の生徒達が、こう騒ぎ出した


自殺した女生徒が生前自分を苛めた人達を呪って怪我をさせているのだ、と


真実かどうかは定かでは無いが、事実であるためにこの噂はかなりの信憑性を持って学校中へと広まった。
それは、担任の教師達だけでなく、教頭、校長にまで伝わる勢いで。

更に、自殺した女生徒を苛めていた生徒だけでなく、他の生徒にも苛めをしたことがある生徒にも被害が及び始め、
挙句には「自殺した女生徒の幽霊を見た」と言う者もおり、単なる自殺事件と噂で収めることはできずに、
遂に学校側が動かなければいけない事態へと発展した。

…集団自主休校。

勿論の如く授業は中止、学級閉鎖はおろか学校閉鎖となり、立海は暫し学校を休校することにした。

その期間中に、解決することを祈って。





学校が休校となっても男子テニス部だけは違った。
王者であり続けるために、こんなところで休んでなどいられないのだ。…といっても、非常時が故にレギュラーのみだが。

レギュラーに苛めをした事がある部員がいるならそれは例外となるが、それも無く。

「暑いのぅ…折角学校休みじゃのに、何でオレ等だけ部活せにゃならん…」
「仁王、たるんどる!こんな時だからこそ、俺たちは練習し続けなければならないのだ」
「あー分かった分かった。分かったからそう怒鳴りなさんな」
「仁王!」
「メニューの内容はもう終わった。ちょぉ休憩してくるけぇ」

レギュラー達が練習に励む中、仁王は1人テニスコートを離れた。
掛け声も聞こえなくなり、シン…と静まりかえっている校内。いつもならありえない

( …まだ、いる )

屋上を見上げれば 1人の女生徒がフェンスの外に立ち、空を見上げていた。
…その身体の向こう側が 薄く見えている。
―――そう、彼女が 自殺した女生徒だ

( 苛めをしてた奴等を傷付けて…何がしたいんじゃ )

そんなことをして、お前は救われる?

( …あほらし )

いくらその姿が視えるといっても、自分にできる事など何も無いのだ
仁王はテニスコートへ戻るべく身を翻す―――が

( …?誰じゃ? )

1人、背の低い、立海のものではないが制服と思わしき白いスカートに、灰色のパーカーを纏った少女が
校舎内に入っていくのが見えた。
勿論、その身体は透けていなく、正真正銘生身の人間だ

( …。 )

仁王は少し興味を湧かせた
こんな状態の立海を訪れるなんて、何か重大な用でもあるのだろう。…無いのなら、ただの好奇心バカだが。

仁王はテニスコートへ向けていた足の方向をかえ、校舎を目指した





「…では頼むよ、くん」
「はい」

少女の後を付いて行き、辿り着いたこの部屋…、校長室から声が漏れて聞こえる。
仁王はここで、驚くべきことを聞いた

この少女が立海を訪れた理由。
それは、あの今も自縛霊の如く遺る自殺した女生徒の霊を浄霊させること、らしい。
浄霊とは、この世に残る霊たちを、説得することで天界へ導くこと…つまり、成仏させることを云う。
つまり少女は、あの女生徒を救いにきたのだ。…言い方をかえれば、この立海の問題を取り除きに来た。

( あんな女子が… )

小さかった。
そのイメージしか無いが、あれは絶対に大人ではなかったのだ。
そんな少女に、そんなことができるのだろうか

「…で、そこで聞いてるコ。ちょっと入ってきてよ」
「…。……!?」

一瞬、何を言ったのか分からなかった。誰に言ったのかも。
…これは、俺に向けられた言葉だ。
部屋の中にいる少女は、オレの存在に気付いてる

「…、失礼します」

ここは素直に従っておくべきだと思い、校長室の扉を開けた

「…っ…」

少女が、息を呑む音が聞こえた。…何故だかは、分からない。

「…仁王?」
「おお、田村センセ。元気?」
「あ、ああ……しかし、何でお前…」
「…」

部屋に入ると、校長だけでなく、教頭、各学年主任、その他暇だったであろう先生がいっぱい居た
話しかけてきたのは、オレの担任。30代前半、男。気の優しい人だ

「 初めまして 」

少女が、微笑んだ。
オレが、返した言葉は――――…

「…よぅ見れば見るほど、小っこいの」
「んぬぁ!?キミは初対面から失礼な事を言うコだね!!」

少女は眉間に皺を寄せ、喚いた。
しかし、本当に小さいのだ
顔が、オレの胸元にある

「お前さん、屋上でずっと空見上げとるアイツ、浄霊しに来たらしいのぅ」
「全部盗み聞きしてたんだね。まぁいいけど」

言葉を交わすオレと少女に、教師達の視線が集まる
その時、誰かが口を開いた

「仁王…、お前 今の言葉…?高田の姿が見えるのか?」

高田―――つまり、今回の問題の主役である、自殺した女生徒の名前だ。


高田(たかだ) 紀代(きよ)
成績は優秀だが自己主張がとてつもなく少ない、いわゆる地味な生徒に分類されるであろう女子
苛めが酷いと有名なグループに目を付けられ、今回の事件へと至った


「…見えるぜよ。
 それに、飛び降りる瞬間も、その後、高田?が空中に浮きながら自分のイレモノを見下ろしてたのも見た」
「なっ…」
「へぇー…キミ、結構視えるんだね。ど?私の手伝いしてくれる気、ないかな?」
「…オレ?」
「うん。まぁ、嫌なら良いんだけど。あ、大丈夫 危ないことはさせないから」
「…。」

オレは、日々の日常をつまらなく思ってた
なら
こんなチャンス、逃すはずがない


「喜んで。―――立海のメシア」


さぁ、非日常の幕開けだ





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