ガッシャアアアアン!!


「うっわ!何スか今の音!…あれ、フェンス?」
「…どうやら、屋上のフェンスらしいな。落ちたのか…」
「っちょ…アレ仁王先輩じゃないっスか!?」
「む!?そのようだな…あんなところで何を…」
「とりあえず、あの体制から見ると落ちる心配はないだろう
 仮にも仁王は 王者立海大テニス部のレギュラーなのだからな」
「( え、何で落ち着いてんのこの人たち )」←赤也










「っ…!!!」


ガシッ……ぐいっ!!


仁王くんの、私の名を呼ぶ切羽詰った声が聞こえたと同時に、腕を掴まれ、力いっぱい引っ張られた。
宙に投げ出されかけた私の体は屋上に倒れこみ、そして

「ッ仁王く…!」

反動で、今度は仁王くんが宙へと投げ出される。
しかし流石スポーツマンと言ったところか、自分の体を上手く動かし、屋上の端に掴まり、ぶらーんと宙吊りになった。

「仁王くん、大丈夫…っ!?」
「…大丈夫やけえ、心配しなさんな。お前さんは?」
「おかげで無傷だよ…」

泣きそうになりながら、私は仁王くんの手の傍にへたりこんだ ( 多分私今情けない顔してる )。
仁王くんは私を安心させるようにニッと微笑むと、ぐっと腕に力を入れ、屋上へと這い上がった。
その時、ふと下から視線を感じそちらを見やると、どうやら自主練しに来たらしい赤也くん、真田くん、柳くんがいた。
3人は仁王くんが屋上に這い上がったのを見るとホッとしたような表情を浮かべた。
どうやらその視線に仁王くんも気付いたらしく、仁王くんは下を見て、苦笑した

( …変な心配をかけてもうたようじゃの。 )

そんなことを仁王くんが考えたなんてことは知らないけれど、
仁王くんは一息吐くと、へたりこんでいる私に手を伸ばした。

「ほら。…救う、んじゃろ?」
「……うん」

私は頭を切り替え、高田さんのことだけに集中するため、顔を引き締め、仁王くんの手を取り立ち上がった。





高田さんは尚も叫んでいた。「あの人」への恨みを。――――― 悲しみを。
しかし、もう風はなかった。どうやらさっきので力を使い果たしたらしい。

私は高田さんに歩み寄る

「…悲しかったんだね」
『!?』
「辛かったね、苦しかったね…悲しかったね…」
『ちがう…ちがう!悲しくなんか…あたしはっ憎いだけ、』
「憎いんじゃない。…ただ、悲しいんでしょう?好きな人に、裏切られたのことが…」
違うッ!!憎いの…憎いの!!じゃなきゃ…っ』

じゃなきゃ、今でもあの人が好きだなんて言ったらあたし、馬鹿みたいじゃない。


高田さんはポロポロと涙を流しながら叫ぶ。…幽霊のはずなのに、その涙は地面に落ちては、滲み、消えた。
涙を具現化してしまえるくらい、それくらい、彼女は…


ふわっ…

『…!!』
「好きだったんだね。辛かったね…。でも、もういいの」
『っえ…?』

私は、高田さんを抱き締め、優しく、諭すように言葉を紡ぐ。
どうか、この想いが 届きますように。

「もういいの。悲しまなくて、いいんだよ…」

言ってたら、なんだか自分まで感極まってきて、ぽろりと、涙が一筋、頬を伝った。
それを、す…と誰かの手が、優しく拭う

「にお、くん…」
「…のう、高田サン。もう充分復讐はしたじゃろ?そんで、分かったはずじゃ。
 そげんことをしても…何もいいことなんてないし、救われなんてしやせんってことを…」
『…』

高田さんは、スッと目を伏せる。それは、肯定と言う意。

「ね?だから…、……逝こう?」

ゆっくりと体を離し、高田さんの手を握った
高田さんは、何も言わずに握り返してくれる

『…あなたみたいな人は、はじめてよ』
「ん?ふふ、そうかもね」

そう言って笑うと、高田さんも涙を流しながら、ふっと微笑んでくれた。

『 …ありがとう 』

とても、とても小さな声で呟かれたその言葉は、聞こえていないフリをしておく。

『ひとつだけ…お願いを聞いてくれないかしら?』
「うん、何でも聞くよ!」

高田さんは安心したように笑い、息をひとつ吐くと、口を開いた―――――










「逝ったのー」
「うん、よかった…笑顔で逝けて」
「なんか、浄霊ってスゴイんじゃの。あんな綺麗に逝けるもんなんじゃな」
「…なにその口ぶり。除霊ならどうなるとか、知ってそうな感じだね」
「さあのう」

仁王くんは、はぐらかすように笑った。
…本当に、この子は何者なんだろう。この子の部屋の霊気や、幽霊への対応とかも、
ただ単に昔から霊感があった、程度では済まされないような気がする。
だからと言って、同業者とか言うわけでもなさそうだし…仁王くんは、謎が多すぎる。

「何じゃ、そんな見つめなさんな。照れるじゃろ」
「ハア!?」

クク、と笑う彼は、ただの男子中学生なのに。

「…さて、校長に報告に行くとするかの」
「そうだね」


今はただ、謎は謎のまま。





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