RRRRRRR...RRRRRRR...

「…ん、」

鳴り響く携帯の着信を知らせる音に、眠りの世界から現実の世界へと引き戻される。 頭がしっかりと覚醒しないまま、携帯を手に取った。 ディスプレイに映し出された名前は、 。 一瞬切ってやろうかとも思ったけれど、とりあえず通話ボタンを押し、携帯を耳へ。

『あ、雲雀さんですか!?おはようございます大好きです!
「切るよ」
『ああああごめんなさい切らないでください』
「…。」
『それでですね、なんでこんな朝早くから電話したかと言いますと』
「…朝早く…」

そのワードに、そういえば今何時か見ていなかったなと思い部屋の時計を見た。 …携帯を落としそうになった。そりゃ眠いはずだ。今は朝の、4時。

「キミ、常識ってもの持ってる?ていうか、常識って言葉知ってる?」
『知ってます!非常識なのは分かってますよ!でも、絶対にしなきゃ!て思って』
「…ねえ、切っていい?時間見たら余計眠くなったんだけど」
『駄目です!お願いがあるんです、雲雀さん。今から私と朝焼けを見に行ってくれませんか?』
「………は?」

朝焼けって、朝焼けって 何。…今は、5月。基本的に朝焼けって夏の、雨が降る日の日の出の時に見るものでしょ? なんでまた、そんな面倒な(しかも見れるかどうかさえ分かんないのに)。 僕に頼んだって、返事なんて分かっているだろうに。

「絶対に嫌。」
『ほんっっっとにお願いします!今日だけ、今日だけですからこんなこと頼むのは!』
「嫌ったら嫌!」
『お願いします〜!!!』
「嫌だよ切るよ」
『お願いします雲雀さあああああんん(半泣き)』

***

…なんで僕は今着替えて家を出ているんだ(なんだかんだ言って、僕も草壁のこと言えないんじゃないか)。 でも別に、これはあの女のためなんかでもなんでもないし、そう 僕のただの気まぐれだ。 …ていうか、夏とは言え朝は寒いね…。 そんなことを思いながら彼女に指定された場所へ着くと、はもう既にいて、僕を待っていた。

「雲雀さん!おはようございます」
「…で、どこ行くの。さっさと終わらせてよ」
「はい、こっちですよ」

は笑顔で僕の腕を取ると、ずんずんと歩き出した。…いや、自分で歩けるんだけど。 そんなことを思いながら素直にそのままに着いていく(ただ単に、抵抗するのが面倒くさかっただけだ)。
5分ほど歩いてたどり着いたのは近場の海。 砂浜まで来ると、は僕の腕を放し、おもむろにその場に座り込んだ。 三角座りをして、海を見つめる(…え、僕はどうすればいいの)。 僕は何をするでもなくとりあえずの隣に突っ立っていた。すると、不意にが口を開く

「…今日は、今日だけは この1日の始まりを、あなたと一緒に見たかったんです」
「……なんで」
「気づいてないんですか?」

は少し驚いたようにしながら僕を見た。けれど、「そうですね、」とくすりと微笑んだ。 僕は?マークを頭の上に浮かべながら、やはり突っ立っていた。すると、少しずつあたりが明るくなってくる。 ふと水平線を見ると、ゆっくりと、本当にゆっくりと、太陽が顔を出し始めていた。と、同時に

空が あかく  染まる。

その何とも言えぬ、綺麗で神秘的な光景に、僕は柄にもなく見入ってしまった。
そんな僕を知ってか知らずか、はすくっと立ち上がると、少しだけ歩いて、僕の前に立ち、


「 お誕生日おめでとう御座います 雲雀さん。 」


…ああ、そうか。今日は5月の、5日だったか。完全に忘れていたために、少し面食らってしまった。
はそんな表情でさえも愛しく見つめ微笑むと、再び口を開く。

「雲雀さんがこの世に生れ落ちてくれたこの日の始まりを、あなたと見れて 私は幸せ者ですね」

そう、独り言のように言うと、徐に歩き出した。向かう先は、海とは反対方向。

「…帰るの?」
「帰ります。私の望みは、果たされました。私からの誕生日プレゼントは、この空です 雲雀さん」

言うだけ言って、彼女はまた僕に背を向け歩き出した。 僕よりだいぶ背の低い、小さな彼女の後姿が、今日はなぜか とても大きく見えた。 まるでいつものじゃないように、どこか 凛々しく。

「あ、忘れてた!!今年も大っ好きですよ雲雀さーん!!!」
「…」

…前言撤回。やっぱりだった。

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