時は流れ 季節は巡り

出逢った春を通り越し、別れの春を迎えた後も

また、季節は巡り 巡って


そしてまた 春が来る

僕らの始まりの春が 静かに、僕らを包み込むように…。






君と歩いた季節の中に 最終話 - 巡り巡る季節 -







ガタン ガタン…


電車に揺られながら、走り抜けてゆく景色を見る
はじめは見慣れなかった景色も、近付くにつれ見覚えのあるものになっていった。

最寄り駅で、電車を降りる

歩きなれた道のりを辿るように、駅から歩き出した。―――そう、立海大付属中へ向かって。


途中、自分の家があった場所を通る
門の前で少し立ち止まり、家を見上げた。


「( 何も、変わってない…ようで、でも 違う )」


外見は、ぱっと見、あまり変化はなかった。
それでもよく見ればそんなに広くもない庭でガーデニングをしていたし、
表札ももちろん違うくて、家の中はもっと違うんだろうなあと思いを馳せる

暫く見つめた後で、また 歩き出した。


家のすぐ傍の十字路。
彼と一緒に帰っているとき、いつもここで別れた。

去ってゆく彼の後姿を、いつも いつも見つめていた。

別れて歩き出してから、彼も振り向いてくれるようになったのは いつからだったのだろう。
そこまで鮮明には覚えていなくて 所詮人間の記憶なんてそんなものなんだなと悲しくなった


どんどん、どんどん、学校へ近付いていく。
それと比例するように、浮かんでは消える、幸せな日々の思い出。

引っ越してからが不幸と言うわけじゃなかった。
ただ何かが物足りなかった。彼以外を………


仁王以外の誰かを、新たに愛することが出来なかった。


このままだと、私は一生独身で終わるかもしれない。
でも、それでもいいと思った。
誰か、愛してもいない人と恋人になり身を結び、共に人生を歩んでいくよりは。


そんなことを考えているうちに、学校の前に着いた。


――――― 今日ここに来たのは、大して理由があるわけじゃない。


昨日高校を卒業し、なんとなくだけれど、ここに来たくなったのだ。

もしかしたら、仁王に会えるかも知れないと思ったのかもしれないし、
もしくは逆に、断ち切ることが出来るかもしれないと思ったのかも しれない。

でも、やっぱり無理。

あの日から、約3年経った今でも―――…


「 好きだよ…仁王 」


そうぽつりと呟く


ザッ…ザッ…


刹那聞こえてきた足音に、無意識にそちらを向いた。


「…ぁ…」


こちらに歩いてくる人物は、下を向いていてこちらには気づいていない。
私からだって、ちゃんと顔が見えているわけではない。
でも、

あの陽に透けて輝く銀髪は


「に、お…」

「―――……?」


私の声に、弾かれたように顔を上げた仁王は あの頃よりもずっと大人びていて、格好良かった。
閉じ込められていた 好き という感情が、思い出したように騒ぎ出す。


「 仁王… 」


体中が 叫ぶ。

あなたが好きです と。










中学の卒業式の日。
彼女を呼び止められなかったこと、彼女に思いを伝えれなかったこと、
彼女の気持ちや進路のことに気づけなかったことを、俺は今でも思い出しては 後悔を繰り返していた。

昨日、高校の卒業式で。
中学の時と変わらないメンバーで騒ぎながら、俺たちは高校までをも卒業した。

そして思い出すのはやはり 彼女――― のことで。


その当日は元テニス部のメンバーでの宴会だったため普通に家に帰り寝たけれど
次の日、目が覚めると、なぜか立海中へ向かわなければならない気がした。

そう、それはきっと 俺に与えられた 最後のチャンスだった。


そして着いてみれば、彼女がいた。

3年前となんら変わらない姿で、ただ少し、あの頃よりも大人になった が。


ずっと待ち望んだ姿。愛しく想いつづけてきた 彼女。


が 目の前に いる。


「…3年前の あの日」
「っにお」
「言い逃げ、しよってからに…」
「だ、だって…答えがどっちだとしてもさ、悲しいじゃん!」
「五月蝿い。…俺も、」
「…え?」

「俺も 好きじゃて言いたかった…」

「…っ!」


戻ってゆく、あの頃に。

君と歩いた季節の中に…戻ってゆく。


中学3年生のあの日の記憶が 鮮明に浮かび上がる


「お前さんと、友達になって…最初は友達としか思ってなかった。
 でも、一緒に過ごしていくうちに…

 好きになった、んこと」

「に、おう…」

「お前さんが、いつ俺のことを好きになってくれたんかは知らん。でも…、ありがとう」

「仁王っ…」

「もう、俺に何も言わんとどっかに行ったりせんといてくれ…
 遠くないぜよ…大阪なんて。俺らにとったら…」

「…うん」


涙を流すに歩み寄り、抱き締めた

…あったかい。が、今、ここにいる。俺の 腕の中に。


「これからも、一緒に歩いていってくれん?」

「…もちろん!」





君と歩いた季節の中に 僕らはかけがえのないものを見つけた


一度終わりを迎えた季節


そしてまた、僕らは新たな季節を歩き出す






あの日の記憶

浮かび上がるのは、少し色褪せたアルバムの、最後のページ。

愛しい君の名前と、


「 これからも よろしく 」


君と歩いていく。きっと、いつまでも、どこまでも。





君と歩いてゆく季節の中で、僕らはきっと、幾度も壁にぶち当たるだろう


数え切れないほど、苦しみや悲しみを味わうだろう


でも大丈夫、怖くないよ


そう大丈夫、幸せだよ


苦しみや悲しみより、きっと幸せを僕らは手に入れられる


君と歩いてゆく季節の中で 僕らはきっと、笑顔でいられる


君が隣に いるかぎり…









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*完結しました!ありがとうございました!