「あ、えーっと…、です。宜しくお願いします。 ( そういえば跡部景吾…じゃない、景吾って呼べって言われたんだった…くそ、調子乗りやがってナルシめ! 景吾に何か言えって言われてた言葉があったような…?……あ ) そういえば…A組の景吾とはイトコ同士らしいです」 「…さん?らしいって…」 「( はっ! ) あ、いえ、イトコです」 やっちまったぜ…!まあでも、ちょっと変人を見るような目つきの先生は置いといて… クラス中の男女共に、あたしの美貌に見惚れている…!あっはっは、流石あたし!(←) 「…考えてること丸わかりやで…さん…」 「…うるさいわね………忍足侑士!」
紺碧色の空に、柑子色の約束を。
そう、あたしは忍足侑士と同じクラス。 景吾は自分と同じA組にしたかったみたいだけど、さすがに景吾とはいえ、 無理矢理編入させたものだから、それ以上のワガママは通らなかったらしい。 ハッ…所詮はガキということね! ( 2コしか違わないけど ) 先生が、あたしの席を指す。どうやら、ベタでありがち(あ、意味一緒か)な窓際の1番後ろだった。 …しかも、あたしの前の席は忍足侑士。 席に着くと、案の定忍足侑士は振り向いて話しかけてきた。 「そのフルネームやめてくれん?跡部も景吾って呼んどんのに」 「…。」 「その露骨に嫌そうな顔やめてえや。傷付くわー…」 「景吾は仕方なく!アイツの意思とはいえ、アイツのおかげで生活できるのも事実なんだもん」 そう言うと、忍足侑士は 「まあそやけど…」 と言って渋い顔をする。 それでも尚食い下がってきた ( ちょ、うぜ ) 「なあ頼むわ〜さん。フルネームはやめてえや」 「( 勝手に名前で呼びやがって… ) じゃあ眼鏡」 「俺のは伊達や」 「伊達眼鏡」 「人を表す固有名詞ちゃうやん。モノやん…」 「伊達眼鏡男」 「いや…そら、人っちゃ人やけど…。ほら、侑士vとか、侑ちゃんvとか 「却下。」 ですよねー。」 だらりと項垂れる忍足侑士を見て、はあ とひとつ溜息を吐く。 「うるさいなー、授業始まるよ。…侑士」 「!……はは、了解」 侑士は少し驚いたように目を見開くと、少し嬉しそうな顔をしてから、素直に前を向いた。 まあ、これも仕方ない。あの分だと、多分名前を呼ぶまでずっと振り向いたままだっただろうから。うざすぎる。 もう一度はあーと深く溜息を吐くと、周りの視線と、ひそひそ声に気がついた。 皆こちらを見て、数名、顔を赤くしながらひそひそと囁きあっている。 え、なに?あたしが美しいって?知ってるわよ。 キーンコーンカーン... その時、チャイムが鳴る。と同時に、1限目の担当教諭と思われる先生が教室に入ってきた。 「席につけー。授業始めるぞー」 中学生の勉強か…。 あたしはまたまた溜息を吐くと、今日の朝景吾に渡された、1限目である数学の教科書とノートを取り出した。 「――――― ということで、一緒に来てもらうで、さん」 「何が!?何が “ということ” なの!?」 6限全ての授業が終わり、帰りのHRも終わって、さあ帰ろうと席を立った刹那、あたしは侑士に捕獲された。 ( そういえば、昼休みも同じパターンで屋上に連れて行かれて…景吾たちと昼食を食べたんだった ) ということは、またどこかに連行される? 「放してー!人さらいー!変態ー!ロリコンー!」 「ちょ、誤解招くようなこと言うな!俺はロリコンちゃう、年下も好きやけど年上も大好きや!」 「聞いてねーよ!!!!」 一瞬緩んだ腕から抜け出し、げしっと足を踏んでやると、「痛ッ!…もっとやってv」 と何ともキモ恐ろしいM発言をされたので、 あたしは全力で身の危険を感じ、全力で逃げ出す。 「ちょ、冗談やて!待ちぃや!」 「嘘!絶対本気だった!」 「そりゃ半分くらいは……ってちゃーう!!」 「ぎゃああああああああ来ないで変態マゾヒストー!!!!!!!」 あることないこと叫びながら、全然知らない校舎内を大疾走。後ろから侑士が付いて来てる…いやああきもい! 気がつけば外に出ていて…目の前には、テニスコート。 「ハア…なんや…自分で来てくれたわ…ハア、ハア…」 「ちょ、喘がないでよ気持ち悪い」 「( さん、だんだんと口が悪くなっていく… )いや、あれだけ走ったら息も切れるやろ…何で自分切れてないねん」 「え?AHAHAHAHAHA☆」 「…( 末恐ろしいやっちゃな )」 「よお。よく来 「「「 きゃあああああああああ!!跡部様あああああああああ!! 」」」 「!!?」 背後から景吾の声がしたと思ったら、景吾が言い終わる前に黄色い歓声。 すごい、耳にキツい。痛い! それは景吾さらに背後から聞こえており……そこには、数十名、いや 数百名の女たちが犇めき合っていた。 「な、なに?」 「俺たち氷帝テニス部のファン。くそくそ今日もうるせーな!」 「向日岳人…。……ファン?」 『…氷帝を知っている、か。俺たちのファンかとも一瞬思ったが…その様子、そうじゃねえらしいな』 ( そういえば…初めて会った日に、景吾、何か言ってたような ) 「チッ。…、来い」 「え?あ、」 景吾が、あたしの腕を取って歩き出す。あたしがそれに反応する前に、 「「「 いやああああああああああ!!跡部様に触んないでええええええええ!! 」」」 うるせえな小娘共が!!!!!!!!!!( 触ってんのは景吾の方だろ! ) …と目で訴えると、彼女たちは一瞬怯んだようだったが、それでも尚も叫ぶ。 くそー、キンキンと耳に響く声で叫ばないでよ…! つか、こんな奴のどこがいいの!?顔がいいだけじゃん!…あ、駄目だ、自分のこと言ってる気分になってきた。 とにかく!ファン共はたぶん馬鹿だ。いや、絶対馬鹿だろう。くそ… 「馬鹿は1人だけでいいのよこの馬鹿共がー!」 たまらずに叫ぶと、ファン達は再び一瞬静かになる。でもやっぱり叫ぶ。( ちなみに1人の馬鹿ってのは当たり前に景吾ね ) すると、あたしの手を引き前を歩いていた景吾が不意に立ち止まり、スッと右手を上げた。…何? パチンッ… あたりに、景吾の華麗なる指パッチンの音が響く。 たかが指パッチンでこんなに音が出るのかな…と思いきや、よく見ると、制服の袖に拡声器が付いておりました。 え…そこまでする必要あるの、指パッチンに…。 「静粛に。…コイツは、俺のイトコだ。文句ある奴は前へ出ろ」 景吾の言葉に、ファンの女の子たちはシン…と黙りこくった。 かと思うと、一斉に囁き合いだす。…今日の朝の再現だなあ… そんな風にぽけーっと見ていると、景吾が再び歩き出した。気の抜いていたあたしは、こけそうになりながらも付いていく。 「ちょ、どこ行くのさ」 「テニス部の部室だ」 「何故に?」 「それは着いてから話す」 「…」 有無を言わさぬ景吾の背中に、あたしは黙ってついていくしかないのであった。 背後に…ファンたちの黄色い声を受けながら。 忍足のターン(・∀・*) |