「あ、えーっと…、です。宜しくお願いします。
 ( そういえば跡部景吾…じゃない、景吾って呼べって言われたんだった…くそ、調子乗りやがってナルシめ!
  景吾に何か言えって言われてた言葉があったような…?……あ )

 そういえば…A組の景吾とはイトコ同士らしいです」

「…さん?らしいって…」
「( はっ! ) あ、いえ、イトコです」


やっちまったぜ…!まあでも、ちょっと変人を見るような目つきの先生は置いといて…
クラス中の男女共に、あたしの美貌に見惚れている…!あっはっは、流石あたし!(←)


「…考えてること丸わかりやで…さん…」
「…うるさいわね………忍足侑士!」





紺碧色の空に、柑子色の約束を。

# 3 // き い ろ






そう、あたしは忍足侑士と同じクラス。
景吾は自分と同じA組にしたかったみたいだけど、さすがに景吾とはいえ、
無理矢理編入させたものだから、それ以上のワガママは通らなかったらしい。
ハッ…所詮はガキということね! ( 2コしか違わないけど )

先生が、あたしの席を指す。どうやら、ベタでありがち(あ、意味一緒か)な窓際の1番後ろだった。
…しかも、あたしの前の席は忍足侑士。
席に着くと、案の定忍足侑士は振り向いて話しかけてきた。


「そのフルネームやめてくれん?跡部も景吾って呼んどんのに」
「…。」
その露骨に嫌そうな顔やめてえや。傷付くわー…
「景吾は仕方なく!アイツの意思とはいえ、アイツのおかげで生活できるのも事実なんだもん」


そう言うと、忍足侑士は 「まあそやけど…」 と言って渋い顔をする。
それでも尚食い下がってきた ( ちょ、うぜ


「なあ頼むわ〜さん。フルネームはやめてえや」
「( 勝手に名前で呼びやがって… ) じゃあ眼鏡
「俺のは伊達や」
伊達眼鏡
人を表す固有名詞ちゃうやん。モノやん…」
伊達眼鏡男
「いや…そら、人っちゃ人やけど…。ほら、侑士とか、侑ちゃんとか 「却下。」 ですよねー。


だらりと項垂れる忍足侑士を見て、はあ とひとつ溜息を吐く。


「うるさいなー、授業始まるよ。…侑士」
「!……はは、了解」


侑士は少し驚いたように目を見開くと、少し嬉しそうな顔をしてから、素直に前を向いた。
まあ、これも仕方ない。あの分だと、多分名前を呼ぶまでずっと振り向いたままだっただろうから。うざすぎる。

もう一度はあーと深く溜息を吐くと、周りの視線と、ひそひそ声に気がついた。
皆こちらを見て、数名、顔を赤くしながらひそひそと囁きあっている。
え、なに?あたしが美しいって?知ってるわよ。


キーンコーンカーン...


その時、チャイムが鳴る。と同時に、1限目の担当教諭と思われる先生が教室に入ってきた。


「席につけー。授業始めるぞー」


中学生の勉強か…。
あたしはまたまた溜息を吐くと、今日の朝景吾に渡された、1限目である数学の教科書とノートを取り出した。










「――――― ということで、一緒に来てもらうで、さん」
「何が!?何が “ということ” なの!?」


6限全ての授業が終わり、帰りのHRも終わって、さあ帰ろうと席を立った刹那、あたしは侑士に捕獲された。

( そういえば、昼休みも同じパターンで屋上に連れて行かれて…景吾たちと昼食を食べたんだった )

ということは、またどこかに連行される?


「放してー!人さらいー!変態ー!ロリコンー!
「ちょ、誤解招くようなこと言うな!俺はロリコンちゃう、年下も好きやけど年上も大好きや!
聞いてねーよ!!!!


一瞬緩んだ腕から抜け出し、げしっと足を踏んでやると、「痛ッ!…もっとやって」 と何ともキモ恐ろしいM発言をされたので、
あたしは全力で身の危険を感じ、全力で逃げ出す。


「ちょ、冗談やて!待ちぃや!」
「嘘!絶対本気だった!」
そりゃ半分くらいは……ってちゃーう!!
「ぎゃああああああああ来ないで変態マゾヒストー!!!!!!!」


あることないこと叫びながら、全然知らない校舎内を大疾走。後ろから侑士が付いて来てる…いやああきもい!
気がつけば外に出ていて…目の前には、テニスコート。


「ハア…なんや…自分で来てくれたわ…ハア、ハア…」
「ちょ、喘がないでよ気持ち悪い
「( さん、だんだんと口が悪くなっていく… )いや、あれだけ走ったら息も切れるやろ…何で自分切れてないねん」
「え?AHAHAHAHAHA☆
「…( 末恐ろしいやっちゃな )」


「よお。よく来 「「「 きゃあああああああああ!!跡部様あああああああああ!! 」」」

「!!?」


背後から景吾の声がしたと思ったら、景吾が言い終わる前に黄色い歓声。
すごい、耳にキツい。痛い!
それは景吾さらに背後から聞こえており……そこには、数十名、いや 数百名の女たちが犇めき合っていた。


「な、なに?」
「俺たち氷帝テニス部のファン。くそくそ今日もうるせーな!」
「向日岳人…。……ファン?」


『…氷帝を知っている、か。俺たちのファンかとも一瞬思ったが…その様子、そうじゃねえらしいな』


( そういえば…初めて会った日に、景吾、何か言ってたような )


「チッ。…、来い」
「え?あ、」


景吾が、あたしの腕を取って歩き出す。あたしがそれに反応する前に、


「「「 いやああああああああああ!!跡部様に触んないでええええええええ!! 」」」


うるせえな小娘共が!!!!!!!!!!触ってんのは景吾の方だろ!
…と目で訴えると、彼女たちは一瞬怯んだようだったが、それでも尚も叫ぶ。

くそー、キンキンと耳に響く声で叫ばないでよ…!

つか、こんな奴のどこがいいの!?顔がいいだけじゃん!…あ、駄目だ、自分のこと言ってる気分になってきた。
とにかく!ファン共はたぶん馬鹿だ。いや、絶対馬鹿だろう。くそ…


「馬鹿は1人だけでいいのよこの馬鹿共がー!」


たまらずに叫ぶと、ファン達は再び一瞬静かになる。でもやっぱり叫ぶ。( ちなみに1人の馬鹿ってのは当たり前に景吾ね
すると、あたしの手を引き前を歩いていた景吾が不意に立ち止まり、スッと右手を上げた。…何?


パチンッ…


あたりに、景吾の華麗なる指パッチンの音が響く。
たかが指パッチンでこんなに音が出るのかな…と思いきや、よく見ると、制服の袖に拡声器が付いておりました。
え…そこまでする必要あるの、指パッチンに…。


「静粛に。…コイツは、俺のイトコだ。文句ある奴は前へ出ろ」


景吾の言葉に、ファンの女の子たちはシン…と黙りこくった。
かと思うと、一斉に囁き合いだす。…今日の朝の再現だなあ…

そんな風にぽけーっと見ていると、景吾が再び歩き出した。気の抜いていたあたしは、こけそうになりながらも付いていく。


「ちょ、どこ行くのさ」
「テニス部の部室だ」
「何故に?」
「それは着いてから話す」
「…」


有無を言わさぬ景吾の背中に、あたしは黙ってついていくしかないのであった。

背後に…ファンたちの黄色い声を受けながら。





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忍足のターン(・∀・*)