甘い果実と、甘い気持ち

瑞々しい果実のように


この気持ちは光り輝いて、ただ 純粋に。






君と歩いた季節の中に act.12 - 西瓜ごろごろ -







「んじゃ、海恒例のスイカ割りたいかーい!」
「「 いぇーいっ 」」
「…ハァ…」
「…。」


ノリノリなのは、言うまでも無く4人だ。
私も楽しみではあるけれど、既にお疲れな仁王を見てるとなんだかこっちまで疲れてきた


「ほら、仁王もやるよ!」
「…。」


とりあえず、ジャンケンで割る人の順番を決める。

結果、


切原くん
丸井

ちゃん
ちゃん
仁王


となった。


「じゃあまず目隠し…、ハイ ちゃんやってあげて!」
「( ぇえっ!? )う、うん」


切原くんのことが好きなちゃんに、赤いハチマキを渡した(赤也だしね)(関係ない)
ちゃんはおずおずと切原くんの目の部分にハチマキを巻いて、視界を閉ざした


「じゃあ行くよー はじめ!」


まず、その場で5回回る。
そこから、みんなが「右」やら「まっすぐ」やら叫びだす


「赤也。…前じゃ」
「その声は仁王先輩!( 仁王先輩の言葉なんて信じねー! )」
「( 正しい方向言ってるよ仁王…。じゃあ私は、 )右!」
「あ!その声はサン!よーし…」


切原くんは私の言葉を信じたらしい。
まぁ、仁王と私の言葉なら、私の言葉を信じるだろう。

けれど―――


「( その先には、ちゃんしかいないよん )」

「え?ええ?」

「そこだー!」

「よーし!」

「きゃあああああ!」

「っきゃああ?」


切原くんは棒を振り下ろしてから、自らハチマキをとった。

目の前にちゃんがいたことでびっくりしたんだろう。そして、


サン!!」
「あはは。仁王のが正しい方向言ってたんだよ」
「うっそ…!」
「だから私は適当な方向言ったの」


そう言ってちゃんにこっそりウインクすると、ちゃんは苦笑しつつも「ありがとう」と口パク。
うん、いいかんじ!


「じゃあ次は丸井くんね!ハチマキ巻いてあげる!」
「おう頼んだぜぃ


ちゃんは積極的だから、そんなに協力しなくても自力で大丈夫そうだ。


「じゃあ、丸井 行くよー…」









丸井のときも、仁王は正しい方向を言ったので、今度は私も仁王と同じ方向を叫ぶ
丸井は警戒してかそれを信じず、ちゃんの言葉を信じて。
ちゃんは自分の許へ丸井を呼び、「ざんねんでしたー」と言って微笑んでいた

( …めっちゃ順調だねぇ )

と、のほほんしていたら。


「ホレ、次じゃろ」
「…あ、そうか」


すっかり自分の番を忘れていました。
ってことで仁王にハチマキ(黒)を巻いてもらい、丸井から棒を受け取る


( っわ…結構怖い )


一面真っ暗で、何も見えない。
あたりのざわめきとかみんなの声も聞こえるけど、すっごい怖い。


( とりあえず、回らなきゃ )


その場で5回回る。
方向なんて分かったもんじゃない。
たった5回とはいえ回ったので、頭もグワングワンするし。


( えーと、方向は… )


「右っスよー!」
「後ろよ後ろ!」
「真っ直ぐだぜぃ」
「右だー右!」
「左じゃ」


…このとき、私は無駄に確信があった。
仁王は嘘を吐いているという、確信が。


( 正しいのは誰?
 切原くんとちゃんは右、ちゃんは後ろ、丸井は真っ直ぐ…

 切原くんはさっきの私の嘘の誘導で私に恨みがあるはず。
 じゃあ嘘をついてる…と見せかけて正しいことを言ってるかもしれない。
 きっと切原くんは私に恨みがあるから嘘を言ってるだろうと思うと思ってるだろうな
 裏をかく、ってやつ。

 …うん、でも ごめん。
 私は裏の裏をかきます )


右に歩き出す。
切原くんの誘導にしたがって途中まで行って、途中から切原くんの声色が変わったのが分かった
見抜かれて焦ってるのかもしれない。
ってことでもう1人正論を言ってるちゃんの誘導に従っていくことにした。


「真っ直ぐ真っ直ぐ……そこだ!」

「おりゃあっ」


ぱこん。


「…当たった?当たったよね今!」
「ああ、当たったぜよ。…当たっただけじゃがの」
「え?」


ハチマキを取ってもらい見てみると、本当に当たっただけだったらしい。
スイカはそのままの形で存在していた。


「あらま…」
「でもまぁ、続けられるってことだし、いんじゃね?」
「そうだな」


そういうものですか。


「…、お前さん俺の声無視しよったじゃろ」
「うん、なんとなく仁王は嘘言ってるなって確信持ってさ」
「( なんとなくか確信かはっきりしんしゃい )」
「ハイ次ちゃんー。」





ちゃんもちゃんも、いいとこまでは行きつつ敗退。(?)

そして、最後の1人。


「ハイ、頑張ってね」
「ん」


仁王。



…私は、仁王には嘘を吐かないでおこうとスイカ割りが始まったときから思っていた
だから、


「右右!」


私は正しい方向を言っていた。
でも、私んとき仁王を信じなかったし、信じてくれないかなと思っていたら、


「( うそ… )」


信じてくれた。
私の指示する方向へ、仁王は素直に歩いていく

そして、


「仁王っ!そこ!」
「…っしゃ」


パカァアン


「大当たり…!」
「スゲー割れた!」
「くっそー結局仁王先輩か!」


約2名が悔しがり、約2名がそれを宥める中、仁王は自分でハチマキをとり、私の許へ


「お疲れ様、にお」
「俺も、なんとなく 確信したぜよ」
「、え?」

は正しいこと言っちょるって、確信した」


そう言って仁王が微笑んだときの、



ザザ…ン


陽の光に透けて輝く銀髪と、


ザザ…ン

ザザ…ン



後ろで聞こえる波の音を



私はきっと、一生忘れることが出来ないだろう。








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