夢を見たの

キラキラ輝く小さな想いが、
やがてもっと輝きを放ち


あなたに、届く夢を。






君と歩いた季節の中に act.13 - 夢見る人魚 -







4人が海に遊びに行っている間、俺とはとりあえずカキ氷を買ってパラソルの下で憩っていた
俺たちはそれで結構満足していたのだが、あるとき赤也が思い出したように、


「あ。…仁王先輩とサン、全然海行ってないじゃないっスか!」


その言葉に他の3人もハッとしたようになり、「行け」と五月蝿い。
俺たちは別にいいと言っているのに、「折角海に来たんだから」と無理矢理背中を押され、


「…」
「…赤也も、無駄に後輩風吹かすんじゃのう…ホンマは自分かてもっと遊びたいじゃろうに」
「いい後輩じゃん」
「…まぁの」


自然と頬が緩んだ。
がそれを見て、「今の後輩を思っての微笑みを切原くんに見せてあげたい!」などと叫んでいる


「とりあえず…入るか?」
「そうだね」


俺は海パンに、上は少し大きめのTシャツ。
は、まぁ…ビキニだ。結果的には。けれど下は薄いスカートもついているし、上にはパーカーを着ている

そのまま海の中へと入っていく。
少し冷たい水が、この日差しの中では気持ちいい


「あ〜海なんて何年も来てない…」
「俺は去年も丸井に連れてこられたけぇ…」
「…仲いい…ねッ」
「っ!」


ばしゃっ。


結構豪快な音を立て、俺に海水がかかる。無論、かけたのは


「お前さん…」
「あはは、隙ありー」
「覚悟はえぇのう…?」
「ぎゃー!」


は叫ぶとザバンッと海の中へ。
そのまま潜水したまま沖の方まで行き、ザバンッと顔を出すと、


「なんか久々に泳ぎたくなったから、泳ぐね!」
「っは?」
「バイバーイ」


そう言うや否や、はまた海に潜り、どこかへ泳いでいってしまった。

…俺は1人、どうすれば?


「…ハァ、しゃぁないのう」


あの4人のもとへ戻っても疲れるだけ。1人で泳ぐのも微妙。
そうなれば、彼女を追いかけるしか術はなかった


「( どこ行ったんじゃ… )」


どうやらは泳ぎが得意らしい。さっきの様子を見てて確信した
俺はといえば、クロールに平泳ぎ、背泳にバタフライ…一応は一通りできるものの泳ぎが得意というわけじゃない
遠くまで行かれていたら追いつけないかもなと思いつつ、俺も海に身体を全部沈めた

とりあえず平泳ぎで、そこら辺の岩場のあたりを探ってみることにする


太陽は、雲に隠れていた。










俺の不安はただの杞憂だったようだ

探し始めて五分。
目的の人物発見。

場所は、近くの岩場。
少しだけ洞窟のようになっており、その中では足だけ海水につけ、岩場に座っていた。


ザバンッ


声をかけようとしたら急に海に入るもんだから、吃驚した
刹那、は海から顔を出す



ピチョン…ピチョン…



「…!」



滴る水滴、伏せられた目。何かを想うように、夢を見ているかのように。その瞳は 惚けていて、

洞窟の上には穴があったんだろうか、丁度雲が晴れたらしく日の光が差し込み、の周りを照らす


なぜか、それが  凄く、神秘的に見えて、



「…あれ、仁王?」

「っあ?ああ…」


見惚れていたんだ、その光景に。

それはまるで、


「どしたの?」
「いや…」


夢見る人魚  のようで。


「( 俺は馬鹿なんじゃろか… )」


とりあえずに「暇じゃけぇ遊んで」と言って微笑んでから、俺は背を向けた

変な考えを思い浮かべたことを、……、張本人には、知られたくない


「( 恥ずかしい、しのう… )」


中三にもなって、人魚 だなんて。


「じゃあ、一緒に遠泳でもしようか?」



馬鹿みたい、だ。








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