来春、また芽吹くために

ゆらり、ひらりと

落ち葉が散ってゆく。


セピアな景色に、切なさと寂しさが僕らを包んで、

秋が、静かに始まった






君と歩いた季節の中に act.16 - 芸術と食欲と君と -







「っあー、おもしろかったね、仁王!」
「そうじゃのう。まさかああひっくり返るとはの…」
「またDVD出たらレンタルして観ようっと」


今日はと2人で映画を観に来ていた。
お互いに観たい映画が被ったためだ
3年が始まってからずっと仲良くしてきたが、2人で出掛けるのは意外に初めてだった
だからといって、何も無いのだが


「あ、あそこの喫茶店のコーヒーすっごい美味しいんだよ。入らない?」
「エエぜよ」


断る理由もなかったので、映画館のすぐ前にあった喫茶店へ。
席に着くと、は勝手にコーヒー2つを注文。( まぁ、コーヒー飲むつもりじゃったけど… )


「でさ、何と言っても伊江松さんだよね。もう私びっくりしちゃったよ」
「まぁのう。俺は三瀬戸も好きぜよ」
「三瀬戸さんもイイ味だしてたもんね〜でも私はやっぱり伊江松さんかな!」


先ほど観た映画について語っていると、コーヒーはすぐにきた。
テーブルにコーヒーを二つ置くと、店員は奥へ下がっていく


「…え、仁王ブラック?」
「そうじゃけど」
「凄いね…私絶対無理」


はミルクとシュガーを平均くらい入れると、かき混ぜてそれを飲んだ
俺も、コーヒーを飲む


「( …ん、美味い )」


の言った通りだ。本当に美味しい


「どう?美味しいでしょ?」
「ああ、そうじゃの」
「良かった」


そう言って微笑んでから、またはコーヒーを口に含んだ

…伏せられた目に あの日の景色が  フラッシュバックする





『 夢見る人魚  のようで。 』





「…っ」
「仁王?どしたの」
「いや、…なんでもなかよ」
「そう?」


これは 認めなければいけないかもしれない。本当に。





が恋人ねぇ……。…… 』





あの時、 「それはないな」 と思ったことも、嘘じゃないのに。





『 よく言われるがの、俺らは友達じゃ 』





その言葉に 何も嘘はないのに。ずっと、そうだと思っていたのに。


「……、」
「なに?仁王」


俺は、お前のことが好きになってしまったらしい。

友達じゃなく 女として。


「…何でも、なかよ」





秋の訪れと共に  少年の中で、小さな恋が 始まった







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