あれだけ心に刻み付けた思い出さえ

いつかは色褪せ消えてゆく。

だから、忘れないように、写真というものはあるのだろうか。

冬が去り、


最後の季節が、僕らを出迎えた






君と歩いた季節の中に act.26 - アルバム -







初詣から、今日―――卒業式2日前までは、特に何もなかった。
みんな受験勉強いそがしそうだし( エスカレーターだけど、外部受験の子も結構いるから )
仁王とも、テニス部のみんなとも、数回遊んだだけで。
…ちなみに、2月14日のバレンタインはちゃんと渡しました。チョコレートを。
仁王に。…あと、テニス部のみんなに。

告白する勇気も自信もない、おまけに万が一OKだとしてもうすぐ東京に行く私としては、
本命チョコだけってのはできなかったんです。

ってことで、義理チョコと扮して渡しました(テニス部はダミー)


そして―――ほんとに、ほんとーに 時が流れるのは早くて。

…もう、明後日には卒業式。…お別れの、日。


今日は卒業式の練習のあと、卒業アルバムが配られた。
クラス内のテンションが上がる(私のテンションもあがる!)

前から配られてきたアルバムを後ろへ回してから、
カバーから取り出してアルバムを開く( すると、一番最初のページにCDが入ってた。アルバム保存版らしい )


はじめに、先生たちの集合写真。
ずっとお世話になった担任の先生や、名前さえ知らなかった教頭先生…
多くの先生の顔を見て、早くも懐かしい気持ちになった。

次に、クラス写真。
少し強張った顔でなんだかぶっさいくな顔して写ってる私は置いといて…


「( 仁王… )」


仁王は、相変わらずだるそうに写っていた。
いつもと違うのは、ボタンがちゃんと上まで閉められていて、ネクタイもしているというところだろうか。


「( ちゃんとした格好も、カッコイイじゃん )」


少しだけ微笑んでから、違うクラスの写真も見ていく。
1、2年のときのクラスメートや、今でも仲のいい友達…みんな載っていた(当たり前だけど)


クラス写真が終わると、次に部活の集合写真。
テニス部の写真を見つけて、思わず微笑んだ。


「( 仁王…なんか真田に怒られてるし )」


なんでこの写真なんだ…と思いながらも見ていると…


「あ」


思わず声を上げてしまった。
…写真の隅に、通りすがりの私が写っちゃってる。


「( 恥ずかしー! )」


でも…嬉しい。
仁王と同じ写真の中に私がいて、嬉しい。


さらにページを進めると、「1年生の思い出」ページが。
入学式や、1年の時の校外学習(という名の遠足)の写真…懐かしいものばかり。

まだまだ幼い私たち。

1年の頃の、自分と 仁王の写真の別々に見つけ、そういえば、と思った


「( 今では仁王と友達なのが当たり前だけど、この頃はお互い名前さえ知らなかったんだ… )」


少し、寂しかった。


次は2年生。
写真は主に林間学校のもので、残りは職業体験のものだった。

林間学校の写真で、偶然仁王と写っている写真があって、少し嬉しい気持ちになる


次のページは修学旅行のものだった。

立海の修学旅行は、海外か国内か選べるもので、
私たちの代では、台湾か九州(温泉メイン)だった。

温泉なんてジジババくせーと台湾に行く人が多かったけれど、私は癒しを求め国内を選んだ。
偶然仁王も国内だったので、旅行中も時々仁王と一緒に行動できて、幸せだったのを覚えてる。

写真を見ると、台湾のものは私は行っていないのでとても新鮮で。
九州のもので、私と仁王2人で写っているものが1枚あり、これは宝物だと思った( これ購入したし )
楽しかったなーとしみじみ感じる。


次は体育祭。
私の写真は1枚もなかったけれど、仁王の写真はあった。
仁王はヤル気がなかったから一番人気のない「玉投げ」という競技に出て見事1位を獲得していた。
そのときの写真が、載っていた。全然嬉しそうな表情してない。

「( そういえば、最後の体育祭はうちのクラスは準優勝だったっけ… )」

優勝じゃなかったので、残念だったと感じた記憶しかない。
あまり興味がなかったせいだと思う。


次は文化祭や、授業風景の写真…(あ、仁王寝てる)


懐かしすぎる。

写真って、すごいなあ。忘れてたもの、全部思い出させてくれる。


次のページを開くと、みんなで書いた「将来の夢」ページ。ちなみにみんな一文ずつ。

私は、『 幸せに暮らしていますように 』。めっちゃ普通だけど、一番の望み。
仁王は…『 平凡第一 』。何書いてんだ君。君が詐欺師であるかぎり平凡じゃないと思うんだけど…

他のクラスのはまた今度見るとして。
次の「1年間のニュース」を通り越し、出てきた白紙のページ。


「( そうか…寄せ書きの、ページ… )」


そういえば小学校のときもあったなーなんて思いながら、
すごく、すごく楽しみになった。みんなに書いてもらうのが。


「( 仁王にも、書いてもらおう )」


そこで、HRの終わりを告げるチャイムが鳴った―――





放課後の、男子テニス部部室にて。


「さあ皆。俺にアルバムを差し出すがいい。俺の言葉を直々に書いてやろう」
「「 …。 」」


皆、無言で幸村にアルバムを差し出す。
幸村は楽しそうに、アルバムの後ろの白紙に文字を綴っていく。
済んだものから順に、放り投げながら。(皆自分のでなくても必死に受け止めている)

俺のアルバムが一番下になってるあたり、俺は最後なんだろう。

そう思いながら幸村の手元を見ていると、不意に外から走ってくる足音が聞こえた。
刹那、ばんっと部室の扉が開けられた。


「仁王いるっ!?」
「おーじゃん。いるぜぃ」
「あっ丸井!ていうかみんな!丁度よかった、みんなも書いてー」
「いいだろう。俺のも書いてくれないか
「OK柳!」


幸村のが終わった順にのもとへ。
自分のを書いてもらい、のアルバムに書き込んでをくりかえしている。


「ほら、仁王」
「っと、サンキュ、幸村」
「フフ、が待っているよ」


幸村の言葉に振り向けば、が。
皆書き終えたのだろうか、自分のアルバムを差し出していた。


「…書けって、ことかの?」
「当たり前じゃん。嫌なら、いいけど」
「そんなこと言うとらん。貸して。…あ、俺のも書く?」
「書く!」


はぱあっと嬉しそうに笑うと、俺のアルバムをひったくった。
あらかじめ持っていたペンで、空いてるスペースに、文字を連ね始めた。

何を書こうか一瞬だけ悩んだものの、すぐに俺はさらっと書いた。
返すためにの方を向くと、は切なそうな表情をしながら、まだアルバムを見つめていた。


?」
「っわあ!え、なに」
「終わった」
「あ、うんありがと、こっちも 終わった」


アルバムを交換する。
はアルバムを受け取るなり、部室の扉へ。


「みんなありがとね!それじゃっ」


こっちが何を言う暇もなく、は部室を飛び出した。


「…で、何書いてたの?仁王」
「は?…ああ、?」
「それ以外ないだろ」


にこっと幸村に微笑まれ、俺は溜息をつきつつアルバムの寄せ書きページを開いた。


「どれどれ…?」


幸村だけでなく、俺も覗き込む。まだ読んでいないから。
それ以外にも、丸井や柳なども覗き込んできた。


「あれ、短けー!!俺のは結構書いてたぜぃ」
「俺も」
「ていうか、結構時間かけてたよなコレも?なんでこんだけに1分以上も…」


皆の言葉など、俺の耳には入っていない。
俺はただ、白い紙に記されたその5文字と名前だけを見つめていた




ありがとう





このたった5文字に、色んなものが込められているような気がして。

…ただ、その中身を知ることは、俺にはできないのだけれど。










「っはは…まだ、泣くのは早いよね…」


仁王からアルバムを受け取った途端、泣きそうになった。
だから、あそこから逃げ出してきた。

1年前の、中学三年の始業式の日に仁王と出逢った桜の木の下に座り込む
早咲きの桜だけ、ぽつりぽつりと花を開いている


アルバムを開いた。
仁王の言葉を、読むために。


「っ…ぅ…仁王、の…ばか…」


泣いちゃったじゃんか…




ありがとう
これからもよろしく

仁王 雅治





『 これからもよろしく 』


ごめん、ごめんね仁王



「もうすぐ さよならなんだよ…」



誰もいない裏庭に 私の嗚咽だけが響く。

春は出会いと別れの季節。


大きな別れが、もう すぐそこに、迫っていた。









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