色褪せたはずの記憶が、鮮やかな色を携え浮かび上がっていく 君と歩いた季節の中に act.27 - あの日は晴れてた - ポツ ポツ… 「っうあ…!?…やばい、雨降ってきた」 テニス部の部室から飛び出し泣いていた(すぐに泣き止んだけど、そのままボーッとしてた)ら、雨が降り出した。 アルバムが濡れないように抱き締めると、すくっと立ち上がる そして、教室に向かって走り出した。 バタバタと階段を駆け上がる。 結構時間が経っていたらしく、学校内にはほとんどの生徒がいなかった。 教室に入ると、誰もいなかった。もちろん仁王も。 「っふう…」 自分の席に座り込み、溜息を吐いた。 アルバムを机の上に置いて、ふと 気づく。 「( そういえば、みんなの寄せ書き見てない )」 テニス部の、仁王以外のメッセージを見ていないと思い、アルバムを開いた。 1人1人のメッセージを読んでいく。 読むたびに、切なさがこみ上げた。 3年生になってから、仁王と友達になったことで、友達になれた人たち。(丸井は元からだったけど) 彼らとの思い出を振り返ると、いつでもそこに、 仁王が いた。 所詮私は仁王が好きで、すべてのものが、仁王に繋がってしまう。 馬鹿らしい、とも思う。 恋ひとつで、人間とはこんな単純な生き物になってしまうのだから。 それでも、恋をした。仁王という、素敵な男の子に。 「…帰ろう」 教科書なんて入っていないぺったんこな鞄にアルバムを押し込み、立ち上がる 教室を出て、昇降口で靴を履き替えて、念のため、と持ってきていた折り畳み傘を広げた。 校門に向かい歩きながら、ふとテニスコートの方を向く。 …これは、中学1年生のときから、ずっと続けてきた動作だ。 ―――――そう、仁王を好きになってから。 私の足は、自然とテニスコートへ向かっていた。 フェンスの前で立ち尽くし、雨にぬらされていくコートを見つめる 「( …そういえば、あの日は晴れだった )」 こんな暗い空ではなく、明るい青空が広がっていた。 あの日も、私は学校の帰りで… 「( そろそろ中学校生活も 慣れてきたなあ )」 そう思いながら、昇降口を出て、校門へ向かっていた。 今日はいつも一緒に帰っている友達が早退したため、1人だ。 「( …あ、テニスコート。テニスって楽しいのかな )」 偶然。なんとなく、そっちを見た。 ああ今日も数人の女子がフェンスにへばりついているなあなんて思いながら、そちらを見つめていた ら。 「 ―――――…っ。 」 1年生の中でも、ある意味では一番目立っている銀髪の男の子が先輩らしき人と試合をしていて、 巧みなフェイントを使って、スマッシュを綺麗に決めた。 そして、――― 微笑んだ。楽しそうに、嬉しそうに 勝気に。 かっこいいと思ったんだ、本当に。 そのままずっと試合を見ていて、終わってみれば、6-0で負けていた。 つまり、あれはまぐれに近かったのだ。 それに、1年生で本当に目立っていたのは、一見穏やかで大人しそうに見えるゆるくウェーブヘアの男の子と、 あんたほんとに1年生?っていう渋い顔の男の子と、きっぱり決まったおかっぱの和風な男の子の3人だった。 それでも、私の中で1番輝いていたのは、銀髪の少年―――仁王だったのだ。 このとき 私は恋に落ちた。 初恋だった。 だから、これが恋だと気づくまで、少しかかってしまった。 気づいたのは、毎日、校内や街中で彼の姿を探しては目で追ってしまうことに気づいた時。 そのときには、もう遅かった。好きになりすぎていた。 どんどんと人気が出てゆく彼に私は絶対に近づけないと思っていた。 だから、諦めていたんだ。見ているだけでいいって。 幸い、それだけで充分だと思えた。なぜなら初恋なので、付き合うなんて考えさえ、あまりなかったから。 見ているだけでいい。いつか仁王より好きになれる人ができるまで、それでいい… そう、思っていた。 ――― 中学3年生の、始業式の日までは ――― 私は本当に、恵まれていたんだ。偶然始業式の日に出逢えたことで、私の人生は変わった ( 大袈裟だけど ) 幸せでした。神様 ほんとにほんとに、ありがとう。 「 …好き だよ 」 伝えよう。後悔のないように。 卒業式の日、最後のお別れのときに―――――。 |