君が今、隣にいること 君と歩いた季節の中に act.28 - どの季節が好き? - 「卒業証書 授与される者 1組!」 卒業式、前日。 最後の卒業式の練習…予行演習が行われた ふあ…とあくびをしながら、予行だというのに泣きそうになっているを見た 「( … )」 伝えようか。君が好きだと。 その先のことなんて分からない。けれど、なんだか 「( 卒業式である明日…。明日までに、言わなければならない気がする )」 何故だろう。そんなことは分からない。 でも、なんだか自分の直感のようなものが、明日以降では言えないと、俺に訴え続けていた。 …会えるだろ?同じ、高校に行くんだから。 「( …同じ高校に行く?本当に? )」 ふと気づいた、違和感。 今まで、数回だけだけれど、進路の話はしてきた。と。 そのたび、今とあまり変わらないだろうという結論にたどり着き、笑って終わった、進路の話。 「( が、立海の高校へ行くとはっきり言ったこと、あったか? )」 ぐるぐると記憶をめぐる。 思い出せ。思い出せ。 思い出せば出すほど、がそうハッキリと言ったことは一度もなかった。 そして同時に、 進路の話が出るたびに、が切なそうに笑うことを 思い出した。 でも。 「( どこかへ行くなんて、それこそ聞いてなか )」 そうだ。立海高へ行くとも聞いていないが、他のところへ行くとも聞いていない。 そう、はどこかへ行ったりなんかしない――――― 俺はこのときに高校のことをはっきり問わなかったことを、 俺自身の懇願にも似た思いで疑問を捻じ伏せたことを、あとで心から後悔することになる そう、冬 クリスマスパーティーの帰りに、彼女に思いを伝えなかったことと同じように…。 「練習でもダルイのに本番となるとどんなけダルイんじゃ…」 「そうだねー…校長とかPTA会長とか、色んな話入るもんね」 予行の帰り、と2人でいつもどおり帰っていた 俺から香るのは―――クリパのときに手に入れた、のプレゼントの香水。 はそれをつけていると気づくたびに嬉しそうな顔をする だから俺は、あの日以来毎日この香水をつけていた。 「明日で中学生活も終わりかー…」 「そうじゃの」 「楽しかったなあ…寂しい、なあ…」 「何が、寂しいんじゃ?」 そのとき脳裏を過ぎった先ほどの疑問。 いいチャンスだと思い、俺はそれを口にしようとした――― 「、お前 高校は 「―――ねえ、仁王」 が、の言葉によって遮られた。 それと同時には立ち止まり、俺をじっと見つめる 「ね、」 「…なんじゃ?」 「仁王は、」 そのときのは、たぶん今までに見てきたの中で、 「 どの季節が 好き? 」 いちばん、切なそうで、泣きそうで、儚い――――― 綺麗な笑顔を、浮かべていた。 俺はただその笑顔に気がとられていて( いや、違う、見惚れていたんだ ) そのあと、俺がどんな答えを返したか、返していないのか、 どんな話をして、どんな風に帰ったのか 何も覚えていない。 ただ、 「私はね が好きなんだ」 はそう言って、いつもの笑顔で笑った。 …それさえも覚えていない、彼女の、 ―――――彼女が好きだといった季節は いったい いつだったのだろう。 |