さようなら さようなら

どうか愛しい人


幸せで いてください。






君と歩いた季節の中に act.29 - またお逢いしましょう -







卒業式。
長いかと思われたその儀式も、(確かに長かったけど)泣きすぎて、気づけば終わりを迎えていた。
まだ溢れてくる涙をとめる術を知らないまま、皆立ち上がり、そして退場していった。

講堂を出ると、在校生と保護者たちが作った花道があり、そこを通ってゆく。
さらに溢れてくる、涙、涙。
視界がぼやけてうまく前が見えないまま歩いていると、途中 石につまずきころげそうになった。
私の腕をとり、それを阻止してくれたのは、


「に、お…」
「…危ないのう。泣きすぎじゃ お前さんは」


ぼやけた視界の中でも、はっきりと分かる陽に透ける銀髪。
そんな髪を持っているのは彼しかいなくて、すぐに仁王だと分かった。

仁王は私の腕をとったまま歩き出す


「っ?にお」
「そんな目じゃ前見えんじゃろ。連れてっちゃるよ」
「…あり、がとう」


優しく 掴まれた腕が熱い。

彼の体温。

もう、きっと 触れることは今日が最後の 彼のぬくもり―――――










友達、先生…色んな人と記念撮影をしているうちに、少しずつ涙は引っ込んできた。
そして、私は最後の場所へ向かう。


「みんなーっ 一緒に写真撮ろう!」
「いいぜぃっ!」
「もちろん」


テニス部が集まっている場所へ向かい、みんなと写真を撮った (撮影:テニス部顧問)
そして、


「仁王。…ちょっと、来てくれないかな」
「え?あ、ああ…」


少しばかりぼけーっとしていた仁王にそう言うと、仁王は少しだけ目を大きくしてから、すぐに頷いた
後ろでテニス部のひやかす声がきこえる。(なれたもんだけど)

人気のない講堂の裏で、私は足を止めた。


「ねえ仁王。2人で、写真撮らない?」
「…ええぜよ。でも、なんでこんなとこ来たんよ。カメラマンいるじゃろ、誰か―――」
「いいの!」


戻ろうとする仁王の腕を掴み、引き止める
仁王は少し驚いたようにしながらも、立ち止まった

私はカメラを構えると、仁王に向かい、微笑む


「こうすれば、撮られるでしょ?…ほら、もっとこっち寄ってよ」
「…ああ」


仁王は少し躊躇うようにしながら、私の隣へ。
私はさらに密着するようにして、


「撮るよー はいチーズ!」


パシャッ


「 ―――――。 」


私は即座に駆け出し、仁王と距離をとる
仁王は少し放心したようにその場に立ち尽くし、私を見つめていた。





キス した。


シャッターが落ちた瞬間に。





「ごめんね、いきなりこんなことして」


熱くなった顔を隠すように、少し俯きながら言葉を紡ぐ


「でも、したかったんだ。ずっと…こんなこと」


脳裏に過ぎっては消える、彼との思い出。


「わたし、ほんとはね、始業式の日に仁王と出逢う前から、仁王のこと見てた」


1年の、あの 晴れた日に、恋に落ちた 私。


「でも、ずっと隠してた。友達としてでも、仁王の傍にいたかったから。…でも、言うね 最後だから」


始業式に、友達にならないかと言った あなた。





「 好きです 」





奇跡のように出会い、軌跡を連ねてきた私たち。


ねえ仁王。あなたは私のこと、どう思ってるのかな?


でも―――聞かない。聞いたら、答えがどちらだとしても、切なくなる。



私は俯いていた顔をあげ、仁王をじっと見つめた。





「 たくさんの幸せをありがとう、仁王


 そして、これらからも、幸せでいてください。


 …大好き、でした。



 ――――― さよなら…っ 」





また溢れてきた涙をこらえながら、私は仁王に背を向け 走り出した。


「 っ―――――…! 」


後ろから聞こえた、私を呼ぶ声。


( 初めて―――…名前で呼んでくれたね、仁王 )


振り返りそうになった自分を戒め、そのまま前を向き 走る。

そして、両親の待つ車へと走り、乗り込んだ。


車が 動き出す。


遠ざかっていく校舎――― そして君。





さようなら、愛しい人。


どうかこれからも、幸せでいて。









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