それは愛しく、優しい牢獄。






君と歩いた季節の中に act.09 - 雨に閉じ込められて -







「やまへんのう」
「どうしようか…」


ファミレスに入って、早2時間。
最初の焼肉定食とプリンとチョコパ以外、ずっとドリンクバーでここまで持ちこたえた。
店側からすればいい迷惑だろう。

でも、雨が止まないんだから、仕方が無い。


「なんかさ、雨に閉じ込められてる感じだよね」
「そうじゃの。…ハァ、そろそろ最終手段使うしかなかの?」
「え?」
「…すぐ戻ってくるから、ちょお待っときんしゃい」


仁王はレジまで行くと、そこにいた店員に何かを告げる
店員は奥へ一旦消えると、すぐに傘を持って現れた。
仁王は一言二言言うとその傘を持って外に出て、どこかへ向かい走っていった。


「( …え!?1人だけ逃げ帰ったとか、そんなんじゃないよね!? )」


1人焦りながら、仁王の帰りを待つ。

私の焦りむなしく、仁王は数分で帰って来た。
2本のビニール傘を、持って。


「ただいま」
「おかえり。…店に傘借りて、傘買いに行ったの?」
「ああ。近くのコンビニにな」
「ありがとう…」
「どういたしまして」


ニ、と笑った仁王はやはりカッコいい。
慣れたとは言え、ドキドキすることに変わりはないのだ


「…じゃ、帰るか」
「ん」


帰るのが少しだけ名残惜しいなんて、仁王は知らないでしょう?

雨に閉じ込められたからとは言え、あなたと二人でいる時間は、私にとって幸せな時間で。


「ホラ、早来んしゃい。置いてくぜよ」
「…はーい」


ありがとう。

心の中で、雨に小さくお礼を言って。


私は仁王を追いかけてファミレスを出て、透明のビニール傘を広げた








<< * >>